劇場公開日 2018年3月1日

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「ギレルモ・デル・トロよりモンスター/怪獣に愛を込めて」シェイプ・オブ・ウォーター 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ギレルモ・デル・トロよりモンスター/怪獣に愛を込めて

2018年6月5日
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鑑賞方法:DVD/BD

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祝!本年度アカデミー賞作品賞受賞!
『パンズ・ラビリンス』という傑作はあったものの、どうしても『ミミック』『ブレイド2』『ヘルボーイ』『パシフィック・リム』など我が道を行くかのようにモンスター/クリーチャーが登場する作品を手掛けてきたギレルモ・デル・トロが、ブレる事無く同ジャンルでオスカーを受賞するとは…!
やったね! おめでとう、ギレルモ・デル・トロ!

本作がオスカーを受賞した時、“総合芸術”という言葉が度々用いられたが、なるほど、納得。
種族を超えた愛の形、社会的マイノリティーへの差別・偏見、社会的に地位ある者たちの横暴・傲慢。
モンスター・ムービー/ダーク・ファンタジー/異色のラブ・ロマンスである事は大前提として、米ソ冷戦下、“彼”を巡る諜報戦、逃がそうと奔走するサスペンス、ミュージカル要素やユーモアも。
クラシック・ムービーへのオマージュがたっぷり込められつつ、それらを纏め上げたギレルモ・デル・トロのメッセージ性と独創的でイマジネーション豊かな演出。
口の利けないヒロインを全身全霊体現したサリー・ホーキンスの熱演。オクタヴィア・スペンサー、リチャード・ジェンキンスの的確な好助演。さすがと言うべきマイケル・シャノンの憎々しさ。
美しい映像、音楽。独特の美術。
雨、水槽、バスタブなど、印象的な“水”のシークエンス…。
大混戦と言われた今年のオスカー、まだ作品賞ノミネート全て見た訳ではないが、映画=総合芸術という意味では(ちゃんと高いクオリティーも含め)、受賞は妥当だったのではないだろうか。

やはり主役は、“彼”。
見た目はこれぞ!と言うくらいの半魚人。
さすがに初見は、グロテスクでキモくも見える。
鋭い爪は人の指や身体を簡単に切り裂き、凶暴性もある。
しかし…
捕らえられたアマゾンの奥地では神のように崇められていた“彼”。“彼”は人を映す鏡ではないだろうか。
つまり、冷酷な者には凶暴性だけが見え、ピュアな者にはそうは映らない。
音楽や卵が好き。手話でコミュニケーション出来るほど知性も高く、リアクションや仕草の一つ一つが次第に愛らしく見えてくる。
それどころか、カッコ良く、イケメンにも見えてくる。
神々しく、美しく、寂しげで…。
CGではなく、俳優が演じた生身のスーツのこだわり、造形。
ギレルモ・デル・トロの愛情がたっぷり注がれた、魅力的な“彼”なのである。
(でも、猫ちゃん食べちゃうのはアカンぜよ…)

作品自体は、賛否両論。
まあ、それも分かる気がする。
好き嫌い分かれるジャンルだし、人間の女性と半魚人のラブ・ロマンスだなんて最初は誰だってドン引く。
おまけに、冒頭からサリー・ホーキンスのフルヌードとアレ、彼女と“彼”の…。
とてもとても『美女と野獣』のようなロマンチックでファンタスティックには程遠い。
でも…
『美女と野獣』はアリで、本作はダメなのか?
否!
それなら劇中のマイケル・シャノン演じる冷酷軍人と同じ。
醜いものは醜い。差別・偏見でしか見れない見方。
誰がケチを付けられようか。
言葉も、種族も、見た目も超え、少しずつ心と心が触れ合っていき、激しく強く惹かれ合う。
“彼”も最後は王子様になったりはせず、そのままの姿、ありのまま。
メルヘンへのアンチテーゼであると共に、真の愛の形。
二人があの後どうなったか、思いを馳せ、余韻にも浸れる。

個人的にはこの作品、好きだ。
上記で語った理由もあるし、そもそもギレルモ・デル・トロの作品がご贔屓でもある。
それらに加え、どうしてもモンスターやクリーチャー、そして怪獣たちに愛着やシンパシーを感じてしまう。
ギレルモ・デル・トロは、『大アマゾンの半魚人』で最後殺されてしまう半魚人に共感し、それが本作を作るきっかけだと言う。
また、ピーター・ジャクソンも『キング・コング』を作る際、よりコングとヒロインの愛を掘り下げた物語に謳い上げた。
恐ろしい存在に描かれる事の多いモンスターたち。
しかしその実は、人間より繊細で、魅力的な存在。ベタな言い方だが、醜く、恐ろしいのは、いつだって人間の方なのだ。
そんなモンスター映画がアカデミー賞を受賞した。
モンスター映画=B級という固定概念を覆した。
これはもう快挙と言っていい。
日本でも同現象が起きた事は記憶に新しい。
言うまでもなく、『シン・ゴジラ』の映画賞席巻。
子供もしくはファン向け、ちんけなB級特撮と言われていたあのゴジラが…!
自分にはちょっとした苦い思い出がある。
その昔、ゴジラが好きというだけで小馬鹿にされた。
それが嫌だったから好きじゃないなんて言ったりしたけど…、
悔しかったなぁ…。
ゴジラが好きで何が悪い!
今はもう、胸を張って堂々と、誇ってさえ言える。
ゴジラは映画賞を獲ったくらいの傑作だよ、と。
(いや、元々映画史に残る名作だけど、所詮怪獣映画と嘲笑する輩が多く…)

ゴジラが絡んで話が脱線してしまったが、つまり何が言いたいかと言うと、
もうモンスター/怪獣映画はB級でも嘲笑の対象でもない。
メッセージ性のある高いドラマを訴える事が出来る。美しい愛を語る事が出来る。総合芸術の一つである。
ギレルモ・デル・トロはそれを証明してくれた!

ありがとう、ギレルモ・デル・トロ!
あなたは、レイ・ハリーハウゼン、本多猪四郎、円谷英二らと共に、偉大なモンスター・マスターの一人です!

近大
GokiPinoyさんのコメント
2019年4月10日

すみません、またまたグチなんですが、
というか、ここに書いていいのかな?

リブート版ヘルボーイ、明日から上映なんですが、
これもどこにレビューを書いていいのやら?

GokiPinoy
浮遊きびなごさんのコメント
2018年6月7日

近大さん、浮遊きびなごです。

熱いレビューですね、激熱です。作品レビューについても炸裂する怪獣映画愛にも諸手を上げて賛同です。共感票10票入れたいくらいです。
モンスター/怪獣映画は人間の途方も無い想像力を現実の映像にしようとする創意工夫と情熱の塊ですし、世の中から疎まれたもの達にも物語があること、外観の美醜じゃ計れないものがあることを伝えてくれます。
この映画はまさにそんな傑作でしたね。

怪獣映画を笑う人達は、そのまま笑わせておきゃいいんですよ! 子どもの頃に憧れたものには、大人の理屈を越えた純粋な魅力があるってことですよ! ゴジラ万歳!!

……こっちの鼻息も荒くなってきたのでこの辺で……(笑)。
返信お気になさらず! それでは!

浮遊きびなご
2018年6月6日

デルトロ作品愛を感じますw

巫女雷男