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◆泣き虫しょったんの奇跡

松田龍平の一見、飄々とした存在感、軽みがひと際魅力を放っている
  「アメリカ人の人生に第二幕はない」とはスコット・フィッツジェラルドの有名なエピグラムだが、いかにも彼のような<成功の神話>に憑りつかれてしまった呪われた天才、浪漫的エゴイストにとって敗者になること、挫折はつねに救いがたいまでに痛ましい。

  ところで「泣き虫しょったんの奇跡」は、小学生の頃から将棋一筋で生きてきて、新進棋士奨励会に入るも、26歳という年齢制限の壁にぶつかって一度はプロ棋士への夢を絶たれた瀬川晶司がアマ名人として再起を図り、編入試験を経てプロ棋士として奇跡の復活を遂げた実話の映画化である。

  「王手」の脚本でデビューした監督の豊田利晃はかつてプロ棋士を目指したこともあるだけに、本作の数多の対局シーンは、ある時はアクション映画のような乾いたハードボイルド・タッチで、ある時は屈折した自伝的な内省というか慈しむような情感をこめて描かれている。

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  フィッツジェラルド風な敗残の美学、過度の自己憐憫とは一切無縁な主人公瀬川を演じた松田龍平の一見、飄々とした存在感、軽みがひと際魅力を放っている。<泣き虫>のニックネーム通り、瀬川は人生のある節目、節目で悔し涙を流すのだが、大袈裟でセンチメンタルな、これみよがしの号泣といったカットがひとつもないのは注目に値する。

  前半は、将来を嘱望されたはずの瀬川が、奨励会から次々に脱落していく仲間たちを横目で見ながら、さらには自らの失墜をもただなす術もなく眺めている風情で、緩やかに進行する。そして彼の人生の第二幕が切って落とされる後半は、一気に畳みかけるようなテンポで、ウェルメイドな人情劇の味わいを加味しつつ、至福の大団円へと向かう。

  ラスト近く、幼少期からのライバルで親友の鈴木悠野(野田洋次郎)が「しょったんの弱点は勝つことに馴れてないことだよ。勝つことの歓びを恐れるな」と諭すシーンが印象に残る。まさに、しょったんの再出発という奇跡を祝福する、あざやかなキーワードに相違ない。

(高崎俊夫)


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