劇場公開日 2018年8月24日

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「名作だと思います」検察側の罪人 華さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5名作だと思います

2019年2月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

知的

下にある顔文字マークの中に「怒り」がないのが残念なくらい、松倉は凄いです。フィクションだと分かっているのにあんなに人を憎いと思ったのは初めてかもしれません。酒向芳さんの怪演は個人的に孫の代まで語り継ぎます。

取り調べのシーンでは二宮くんの咆哮がクローズアップされがちで、もちろんあれは凄いのだけど、それと同時にあのシーンでの酒向さんの縦揺れにも注目してほしい。あまりの嫌悪に吐き気がします。気色悪すぎる台詞回しにも刮目してほしい。私があの場にいたら確実に手が出ています。本当にあばらを何本か折りたくなるくらいの衝動に駆られました。

正義の定義。
価値観というよりも、経験による意識の差から生まれる齟齬と言った方が正確な気がします。
最上とて、あの件がなければ恐らく「普通」と呼ばれる正義や信念をもって仕事をしていたはずだし、沖野を苦悩させず、頼りになる先輩のままでいられたはずだから。

最上の行動は人としてどうなのかというのは永遠のテーマなのだと思いますが、本気で自分に置き換えてこの作品のことを考えた場合、私は最上を責めることは出来ないし、沖野を青臭いと嘲ることもできません。

諏訪部の存在がなければ最上は思い留まっていたかもしれないけど、諏訪部がいるんじゃどうしようもないね。あれはもうやるよ。私でもやるかもしれない。
同調して協力してくれる仲間がいるんだ、一人じゃないんだ、的な妙な安心感を勝手に得てしまって、ある意味、最上はそこに溺れてしまったのかもしれないですね。
諏訪部すらも「あんた、それは流石にないよ。頭おかしいんじゃないの? 引く引く」と呆れていたら、最上はああまで暴走しなかったのでは、とも。

主演の木村さん曰く「多分、一度見ただけでは咀嚼できないと思う」とのことだったのですが、まさにその通りでした。
この作品はとにかくテンポが速くて様々なシーンが高速で流れていくので、今の何?とか戸惑っている暇がほぼないです。特に序盤はそうですね。
なので二回観ました。

一回目にパンフレットを購入して読み込み、二回目にしてようやくこの作品の本来の形を認識することができて、思わず「なるほど!」と感嘆の声をあげてしまうほどの達成感がありました。

個人的には、わりと温厚なイメージだった大倉孝二さんの粗暴なキャラクターが新鮮で好きですね。
最上との森のシーンでの「アレ」は、双方素晴らしいお芝居で、忘れられない名場面です。

沖野と橘さんが捜査しているくだりは、ちょっとした清涼剤に感じました。見た目が可愛らしい二人ですし、会話も所々ウィットに富んでいて。観ていて唯一ホッとします。

音楽も素晴らしく、二胡で奏でられるメインテーマは大好きすぎて、すぐにサントラを探しました。
また、諏訪部の店の内装だったり、登場人物たちが食べている様々な食事やケーキなど、とても美味しそうで興味が尽きない作品でもありますし、それがただ美味しそうなだけではなく、時に何かのメッセージが込められているところが心憎いですね。ルバーブのケーキは死ぬまでに是非一度食べてみたいです。

丹野の待つホテルの部屋番号、アサシンの彼女が発する暗号のような言葉、白骨街道に関するエピソード、その他たくさんの深読み要素があり、この作品を鑑賞している時に生まれて初めて「瞬きしてる暇がないな」と思いました。
そういう濃密な作品を2000円以下で、しかも大スクリーンで二度観られたということ自体が財産です。
何回見ても新しい発見があるのでは、と、まるで古代遺跡の発掘作業をしているようなワクワク感を得られる作品でもあります。

ここまでハマった作品は久々だったので、確実にBlu-rayは買います。一気に原田監督のファンになりました。木村さんをはじめとするキャストの皆さんにも大拍手を送りたいです。木村さんは、この作品でアカデミー賞を獲るに違いないと確信していましたが、なかなか難しいのですね。もちろん、賞が全てではないけれど。
でも、本当に素晴らしいお芝居だっただけに個人的には「くっそー」という思いでした。

頭を使いながら映画を観たくないというタイプの方にはオススメしません。細かいことをいちいち調べたりすることが楽しい方にはとてもオススメ。
私がそうですから。
最上のギャベルコレクションは、家に欲しいですね。

華