劇場公開日 2018年5月4日

「芯がぼんやりした竜巻は大概弱い」ラプラスの魔女 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5芯がぼんやりした竜巻は大概弱い

2018年5月18日
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鑑賞方法:映画館

寝られる

三池崇史監督最新作は、東野圭吾のベストセラー小説の映画化。

“ラプラスの悪魔”というのは、「ある瞬間の全ての物質がどう振る舞っているかを解析できる
だけの知性があれば、未来に何が起こるかもその人には予測できる」といった提唱らしい。
その“ラプラスの悪魔”に匹敵する知性を持つ者による、通常では予測不能な自然現象を
利用した殺人を解き明かす……ダイナミックで面白いミステリになりそうじゃないすか。

しかし残念ながら……そんな題材の割にはミステリとしてこじんまりしているというのが最終的な印象。
イマイチの2.5判定をつけさせていただいた。

...

物語の設定を聞いたとき、まず自分は「様々な自然現象をモチーフにした怪奇事件が幾つも発生する
ミステリ」を期待した。だが劇中では、事件のパターン(自然現象)はせいぜい2種類ほどだし、
トリックの解明にしても、現象を映像で見せただけでなんとなぁく説明した感じで終わってしまう。
なので本作は、「あ、そういうことかッ!」という推理モノ特有の面白味に著しく欠けるんよね。

まあ『常人では予測不可能な自然現象』を観客に向けて解説するのがまず難儀だろうと思うし
(数学や物理学という言葉を聞いただけで僕はめまいと吐き気を覚えますぅぉえあっ)、
そもそも本作に登場する“ラプラスの悪魔”は、現象を数式や仕組みとしてではなく直感的に
予測しているように見えるので、本人たちも現象の説明を他人に出来る訳でもないのだろう。
原作未読だが、映像化自体が難しい題材なのだろうな、と理解はする。

ただ、櫻井翔演じる地球化学専門家・青江の役回りには、その点も含めて大いに不満。
あのキャラは、物語を進める役割にしても、観客を導く役割にしても、存在感が弱過ぎる。
事件解決の上で主人公らしい活躍をしてくれればだが、トリックの解明も、
事件の解明も、ひたすら他のキャラから情報をもらうだけなんだもの。
事件解決に何か貢献したかと言うと……ホントに現場の案内か車の運転くらいなんじゃ……。
いちおう悩めるヒロインを勇気付ける言葉がラストに作用する流れではあるので、
主人公としての体裁はギリギリ保ったと言えるような言えないようななのだが、
基本は事件に巻き込まれて成り行きを見守るだけのキャラに終始していて残念。

本作は『誰が犯人か』を推理させるタイプのミステリでも無いので(その点だけで言えば火サス並み
の強度しかない)、トリックの解明に関わる部分にこそ、もう少し力を入れて描いてほしかった。

...

ミステリとしても不満だが、この映画はミステリ以外の部分もイマイチ。

まず、脇を固めるキャラの扱いがぞんざいだ。
玉木宏の役は中途半端な存在感のままで尻切れトンボな結末を迎えてしまい、
彼もまた事件の情報を観客に説明するだけのキャラに終始してしまったし、
高嶋政伸の役も、悪党ではなく“ヒロインを守ることに関して忠実な男”という設定なの
だろうが、ヒロインとの関係が全く描かれないので終盤の「ありがとう」が響かない。
佐藤江梨子の役に関しては……そもそも何がしたかったかすらもピンと来ない。

それに……『物語には必ずメッセージやテーマを入れるべき』とは言わないが、
この物語は……なんというか……“芯”が無い。首尾一貫したものが感じられない。
例えば全ての事件の発端であるあのキャラは、ラストで自然現象や未来予知とは全く関係無い話で
ひとりで盛り上がってたし、最後のヒロインの問い掛けも、それまでの流れとの関わりは薄い。
全体的に、各キャラや要素ひとつひとつの関わり・積み重ねが弱過ぎて、そのせいで
各キャラがどれだけ感情的な、あるいは示唆的なセリフを吐いても心に響いてこない。
それどころか、ちぐはぐな要素を無理やりつなぎあわせて仕立てたような話を
延々と聞かされているような退屈さと居心地の悪さを感じてしまった。

...

以上。
116分という決して長くは無い上映時間の作品だが、なんだかやけに長く感じました。

キャストが豪華だったりアイデアが面白くても、キャラや事象がどのような形で作用するか、
それらがどう化学反応を起こして、結果として物語がどのように膨らんでいくかは……
映画もまた予測が難しい現象やよね、と、なんとなく締めて終了。

<2018.05.04鑑賞>

浮遊きびなご