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◆オリエント急行殺人事件

程よく吟味されたキャスティングの妙。エモーショナルな幕切れはケネスの真骨頂
  こんなに胸騒ぎがしたリメイクは近頃珍しかったと思う。スーパーヒーローものやSF映画ではなく、ミステリーの女王、アガサ・クリスティ作品の中でも、特にスターの競演が必須の"群像推理劇"を、若者受けは難しい素材を、いったいどんなメンツで再構築するのか!? スター不在が極まるこの時代に??

  しかし、注目の配役は程よく吟味されていた。1974年製作のシドニー・ルメット監督作のキャストをカッコ内で紹介しつつ比較してみよう。豪華寝台列車内で刺殺される怪しげな富豪にジョニー・デップ(リチャード・ウィドマーク)、犯人探しを意図的にミスリードしようとする謎めいた未亡人にミシェル・ファイファー(ローレン・バコール)、そして、毎夜自慢の巨大横長髭にテープを被せて床につく潔癖症の名探偵ポワロに監督も兼任するケネス・ブラナー(アルバート・フィニー)。このあたりは、ルメット版のイメージをある程度踏襲したキャスティングか。

  一方、リメイク版ならではの斬新な顔ぶれは、以下の通り。ポワロの質問に対して冷静に対応する家庭教師(余裕綽々のヴァネッサ・レッドグレイブ)に、風貌も演技も瑞々しいデイジー・リドリー、元は乳母で今は宣教師をしている苦労人風の女性(これでオスカー受賞のイングリッド・バーグマン)に、年齢も国籍も異なるペネロペ・クルス、そして、殺された富豪の帳簿を管理する秘書(神経質なアンソニー・パーキンス)には、何と、列車外に飛び出してポワロ相手に追跡劇を展開する暴れん坊のジョシュ・ギャッド

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  そう、43年ぶりに蘇った密室殺人は、事件の発端から解決までを全編列車内で描き切った前作の枠を飛び越え、目が眩むような高い鉄橋の上で立ち往生した列車の外や屋根の上、さらに橋架の下へとカメラが移動して、観客を視覚的に飽きさせない工夫が施されている。そもそも車内のシーンですら、現存するオリエント急行"484列車"を基に制作したセット車両の車窓に、予め撮影された大自然の風景をLEDスクリーンで映して、リアルな走行感を演出しているほどだ。

  そして、偶然か否か、同じ列車に乗り合わせた13人の容疑者を全員、まるで"最後の晩餐"の如くテーブルの前に横並びにさせたポワロが、過去に起きた誘拐殺人との関連性から事件の真相を紡ぎ出す大詰めは、舞台俳優でもあるケネス・ブラナーのこれぞ真骨頂。それは、極端な二元論者だったポワロが、世の中には白でも黒でもないグレーゾーンがあることを遂に認める、人としての成長を強調したエモーショナルな幕切れ。これも、ルメット版にはなかったプラス要素だ。

(清藤秀人)


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