劇場公開日 2017年9月9日

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三度目の殺人 : 映画評論・批評

2017年8月29日更新

2017年9月9日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー

暗黒映画を装った、是枝流の裏返されたダークなホームドラマではないか

近年、是枝裕和監督は自らを小津、成瀬に代表される日本の古典的な家庭劇の系譜に位置づけながら、親密さにあふれるホームドラマを好んで描いてきたが、一転、新作は血も凍るような惨殺シーンで幕を開ける。

殺人の前科をもつ三隅(役所広司)が解雇された工場の社長の殺害容疑で起訴される。死刑が確実なその弁護を担当する重盛(福山雅治)はなんとか無期懲役にしようと事件を洗いなおすが、その過程で被害者の妻・美津江(斉藤由貴)から依頼されたとする供述が三隅から飛び出す始末。動機も二転、三転し、さらに被害者の娘・咲江(広瀬すず)のおぞましい秘密が暴露され、事件の真相は〈藪の中〉の様相を呈していく。

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まぎれもない犯罪映画であり、裁判劇でありながらも、是枝監督は、ニヒルでクールなリアリストであるはずの重盛が、証言を相手によって千変万化させる三隅によって徐々に翻弄され、内面を侵蝕・収奪される危うさをこそ注視する。光と陰影に富む張りつめた画面造型は、模範にしたとされる50年代ハリウッドのフィルム・ノワールよりも、キェシロフスキらの東欧名画に漂うメランコリックな不条理感を否応なく想起させる。

時おり、アクセント風に眼を射る北海道の審美的な景観よりも、裁判所内での丁々発止の言葉の応酬よりも、接見室で重盛と三隅が繰り返し対峙するシーンがよりスリリングである。とりわけ、その不気味さは、ガラス越しに、重盛と三隅の横顔が重なるように限りなく接近するシーンで頂点に達する。崩壊家庭、形骸化した内面の虚ろさ、その奇妙な相似形ゆえにふたりが分かちがたく結びついていることを暗示する秀逸な場面である。

ここに至って、犯人捜しといったジャンル映画にまつわるもろもろの約束事は後景に退いてしまう。もしかしたら、冒頭の酷薄な殺人シーンもミスリードだったのではないか。あるいは、暗黒映画を装った、これは是枝流の裏返されたダークなホームドラマではないかと思えてくるのである。

高崎俊夫

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