劇場公開日 2017年6月9日

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パトリオット・デイ : 映画評論・批評

2017年5月30日更新

2017年6月9日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー

実録映画をアップデートする試み。テロとの戦いの難しさも伝える

マサチューセッツ州の4月の祝日「愛国者の日(Patriots Day)」に毎年開催されるボストンマラソン。2013年の大会で起きた爆弾テロ事件を題材に、捜査当局者、実行犯の兄弟、被害者など事件に関わった人々の動きを追うのが「パトリオット・デイ」の大筋だ。

ピーター・バーグ監督と主演のマーク・ウォールバーグは、「ローン・サバイバー」「バーニング・オーシャン」から三たびのタッグとなり、いずれも実話ベース。ただし前2作ではウォールバーグが実在の人物を演じたのに対し、本作の主人公である警察官のトミーは架空の人物だ。事件に対応した大勢の警察官の献身的な捜査活動と危機に立ち向かう勇気が1人のキャラクターに統合され、映画はトミーの視点を通じて事件を追う。

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主人公を創作したことに加え、本編中に実際の監視カメラなどのアーカイブ映像を多数挿入したり、終盤で当事者らのインタビューに相当な尺を割いたりと、従来の実録映画の型にはまらない挑戦が際立つ。もちろんトミーの活躍だけでなく、高圧的だが慎重さもあわせ持つFBI特別捜査官(ケビン・ベーコン)、老保安官のような風格と覚悟を見せる巡査部長(J・K・シモンズ)のほか、爆発で大けがを負うカップルや、犯人の逃走に巻き込まれる中国籍の若者など、関係者たちのエピソードが適宜紹介され、群像劇の味わいもある。爆弾テロの経緯を詳しく知らない観客なら、「彼らは事件とどう関わってくるのだろう?」という謎解きの楽しみも加わるはずだ。

映画は序盤、地元に暮らすツァルナエフ兄弟がアルカイダのネット情報を頼りに圧力鍋で爆弾を自作する様子を描く(いわゆるホームグロウン・テロ)。ツァルナエフ兄の妻(米ドラマ「グリー」のマーリー役、メリッサ・ブノワが演じる)は事件後に拘束され、「シリアなどでは大勢のイスラム教徒が殺されている」と主張するが、これは一面の真実を含む。「アメリカ=正義、敵対勢力=悪」という図式に単純化しない姿勢は、米海軍特殊部隊とタリバン兵の戦いを描いた「ローン・サバイバー」にも共通する。本稿の字数では西側とイスラム過激派の歴史的経緯、今も続くホームグロウン・テロの状況まで言及できないが、テロとの戦いの難しさ、問題の根深さを示唆する点でも意欲的な社会派実録ドラマと言えよう。

高森郁哉

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