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◆エル ELLE

バーホーベン×フランスの大女優の化学反応が、悪女映画の歴史を塗り替える。
  ポール・バーホーベンといえば「ロボコップ」「スターシップ・トゥルーパーズ」など、暴走しまくりのヴァイオレントな作風で知られ、「氷の微笑」では、シャロン・ストーンの足組み替えシーンで見える見えない論争を巻き起こした。そんな監督が、フランスの大女優イザベル・ユペールと組んでフランス映画を撮ったというのは、かなり意外かもしれない。同じように暴力的でも高尚なミヒャエル・ハネケとは異なり、バーホーベンの場合は滑稽なほどのえげつなさが売り物だから。だがこの結果は誰が予想しただろう。「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」で知られるフィリップ・ディジャンの原作を映画化した「エル ELLE」は、バーホーベンのタブーを蹴散らす大胆さときわどいユーモアが生かされつつ、フランスのブルジョワ的スノビズム、背徳性や偽善をあくまでソフィスティケイトされたタッチで描いている。

  ビデオゲーム会社の社長であるミシェルは、ある日自宅に押し入った侵入者に乱暴されるものの、警察には届けず、自ら犯人を探し始める。事件をあっけらかんと喋って友人たちを唖然とさせる彼女だが、ストーリーが進むに従ってその屈折度と彼女の暗い生い立ちが明らかになっていく。もっとも、妙に理屈をつけてキャラクターを正当化しようなどと企まないのが、バーホーベンならでは。観客は誰が犯人かというサスペンスを楽しむと共に、ミシェルの驚くべき性格に驚嘆させられ、最後はとどめの一撃を受けてくらくらとしながら劇場を後にすることになるだろう。

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  とりわけ感心させられるのは、これがアラサーのいかにもセクシーな主人公ではないということ。大人の女の美しさと威厳に満ちたユペール女史が演じるヒロインは、どう見ても40代以上であり、それが職場の若手男子から、妻子持ちやらイケメン隣人まで、周りの男たちにモテまくり、さらに彼らを手玉に取る。これぞフランス熟女の鑑。悪女映画の歴史を塗り替えるヒロイン像である。

  考えてみればバーホーベンは、初期オランダ時代の「ルトガー・ハウアー危険な愛」にしろ「氷の微笑」にしろ、あの悪評を買った「ショーガール」でさえ、あまり他ではお目にかかれない魅力的な強い女性を描いてきたのも事実。本作はそんなバーホーベンが、恐れ知らずのユペールという最強の共犯者を得て、映画界に一石を投じるものだ。

(佐藤久理子)


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