愚行録のレビュー・感想・評価
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そこから40分経って恐ろしい事件が起こる。 まじかこれ? きっとこの映画を見た人が驚く場面が3回あると思う。 こんな展開は予想できない。
動画配信で映画「愚行録」を見た。
2017年製作/120分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野
劇場公開日:2017年2月18日
妻夫木聡
満島ひかり
小出恵介
臼田あさ美
市川由衣
松本若菜
中村倫也
眞島秀和
濱田マリ
平田満
松本まりか
石川慶監督
向井康介脚本
貫井徳郎原作
ほとんど予備知識なしで鑑賞を始める。
知っているのは妻夫木聡が主演ということだけ。
なかなか映画の全体像がつかめない。
1時間見て判ったことは、
雑誌記者の田中(妻夫木聡)は
1年前に起きた一家惨殺事件の取材を続けていた。
事件は未解決のまま。
被害者夫婦(小出恵介、松本若菜)の元同僚や大学時代の友人たちや
事件があった近所で聞き込みを続ける。
これはミステリーやサスペンス映画だった。
一見普通に幸せそうに見える人たちにもそれぞれ
他人には想像できないような経験や人生の試練がある
そこから40分経って恐ろしい事件が起こる。
まじかこれ?
きっとこの映画を見た人が驚く場面が3回あると思う。
こんな展開は予想できない。
満足度は5点満点で5点☆☆☆☆☆です。
重々しく暗く、誰もがしていることのようで、何も解決されない
冒頭からひどく憂鬱さが漂う。バスでの些細な出来事とその愚行がある種の「日常」を描いている。
主人公妻夫木君演じる田中には妹がいて、彼女が育児放棄したことで逮捕収監されていることが伝えられる。
彼は週刊誌の記者で、1年前に起きた一家殺人事件の真相を追っている。
彼には潜在して気になる点があるようで、誰にも気に留められなくなったこの事件を追いたいと自ら志願した。
妹は収監先の精神分析医に質問を受けながらそれに答えている。
ストーリーはこの兄妹の視点から「真実」が暴き出されてゆく。
被害者の人となりを探るため、田中は周囲から取材し始める。殺害された「田向」
会社での彼を知る同僚に酒を飲ませ、思い出などを語らせる。どこにでもある「愚行」
当人たちは面白おかしく話すが、クソのような行為だと思う。
次に宮村という学生時代の同級生から、殺された田向の妻、旧姓「夏原」について聞き取りを行う。
こうして次第に人間関係が明らかになってゆく。
同時に妹が精神分析医に家族のことなどを話している。
田中は、宮村への二度目の訪問時に、妹のことをバカにしたように話す宮村に対し、瞬間的に殺意を抱いた。
しかしそれは全くのお門違いで、しかし彼にはその衝動的なことでしか動機は存在しない。
小沢の犯行に見せかけるあたりは、とても逆上したとは思えないほど冷酷だ。
父の虐待 父からの性暴力 妹を守るため… そう思わせておきながら、実は兄妹同士の恋愛だったというのがこの物語の大どんでん返しだ。
田中は何度も鈍器で宮村を殴っていることから、その感情の激しさと異常性を知ることができる。
恋愛関係でもあった妹が、大学で、仲間たちによって回されていたのだ。
警察が犯人を特定できないのは、捜査線上にはないことだからだ。
彼だけが行き着いた真実だが、彼もまた事件の真相にはたどり着くことはない。
妹の光子は、兄との秘密をかたくなに守っているようだが、いろいろなことを精神分析医にしゃべる。
しかし、「誰と話してるの?」そう言って部屋に戻ってきた医師に、彼女は真実を話していないことから、この事件は迷宮化すると考えられる。
橘弁護士も、チヒロが誰の子かを知ったとしても、真相にはたどり着かない。
「日常」では、くだらない些細な愚行が蔓延り、会社のあの男たちがしているお遊びも今後も続く。
この作品の面白い作りは、記者の兄が1年前の殺人事件を追いながら、そこに登場してしまった妹の存在を知ってしまうところだ。しかし、田中は妹から何も聞かされていないので、結局誰が一家を刺殺したのかという真実には誰もたどり着けないのだ。
これは最後に「田中、お前の事件だろう?」と先輩に叱責されながら、新聞を机にたたきつけて「わかってます」というシーンでよくわかる。
田中は事件を追いながら妹の存在を知り、そこでのことに逆上しただけだ。
事件は頓珍漢な方向へ向かいながら迷宮化。チヒロが死んだということを聞かされて笑う光子の精神状態が普通ではないことは明らかだが、真実が明らかになったところで光子の救いは兄によるしかない。
妹の真実を聞かされ八つ当たりするように起こした殺人も、頓珍漢な方へと向いている。
内部生なる軍団も変わることなく、結局はじかれた夏原がつかんだのは田向だ。
どこにも救いのないこの作品の最後に、バスで妊婦に席を譲る田中の映像がある。
ごく自然な日常の優しいシーンだ。
この些細な行動が、愚行からの最初の一歩だと思いたい。
映画「愚行録」の考察・ネタバレ
# 足を引きずる男 田中
冒頭、主人公の田中は足を引きずって歩く。だがそれは演技だった。
バスの中で「ご老人に席を変われ」と他の乗客に叱責され、足の悪い演技をして、相手に罪悪感を抱かせたのだ。
# 一家殺害事件
1年前の一家殺害事件。世間の興味も完全に薄れた頃、記者の田中は何故かこの事件の取材を始める。
# 幼児虐待事件
記者の田中には妹がいる。この妹が最近幼児虐待で逮捕されてしまい、全国的なニュースにもなってしまう。
つまり田中は仕事で1個の事件、プライベートでもう1個の事件と関わっていることになる。
# 田中の取材の目的は何なのか?
本作を見ていて不思議に思うのは記者の田中が何故一家殺害事件の取材にこだわるかということだ。
田中は殺害された一家と以前関係のあった人々に1人ずつ取材をする。
そして「あなたは誰が一家を殺したと思うか?」ということをそれとなく質問して行くのだ。
彼の目的はおそらく、真犯人である妹、田中光子をかばうためだったのではないか。
# カフェオーナーの女性は何故殺されたのか?
田中が取材する中で、カフェオーナーの女性が出てくる。
その女性は最終的に、田中と妹が兄弟であることは知らないままに「光子が一家を殺したのではないか?」と述べる。「光子は殺された一家の妻に恨みがあるので、私だったら殺しに行くだろう」と。
女性カフェオーナーは、そのすぐ後に田中によって頭を殴られて殺されてしまう。
しかも田中は他人が吸ったタバコの吸い殻を準備しており、それを現場に残し、他人に罪をなすりつける。つまりこれは計画的な犯罪だ。少なくとも妹を悪く言われて感情的になったわけではないはずだ。
ここまで計画的に人を殺すのだから、カフェオーナーが犯人を誰と予想したかはまるで関係なく、最初から殺すつもりだったのかもしれない。
# 一家殺害の真犯人
妹の田中光子は1人の部屋で独白する。自分がどのように一家を殺したかということを。
これは彼女の妄想なのだろうか。それとも真実なのだろうか。
これが妄想にしては語られるディテールがリアルすぎる。真犯人でなければ知り得ないような情報がおそらく、その独白シーンでは語られている。
田中光子は殺された女「夏原」と、大学の同級生だった。その大学には色々と複雑なヒエラルキーがあったのだが、夏原は自分の立場のために、男たちに光子を供物として捧げ、慰みものした主犯なのだ、おそらく。
光子は大人になってから偶然夏原に再会し、そのまま後をつけて家にまで忍び込み、一家全員を殺してしまう。
# 兄と妹
妹の父親は誰かが分からない。「自分にも妹は真実を教えてくれない」と田中兄は言う。
だが劇中で示唆されるのは、その子供が兄と妹の子であるということだ。妹は「大好きな人と子供を作って暮らしたい」的なことを語り、そして兄が唯一世界で好きな人だと語る。そして兄と妹の間に誰にもいえない秘密があると語る。
これも心を病んだ妹の妄想なのか、それとも真実なのかは分からない。
だがこの兄弟の母が示唆するように、ただの妄想だとは片付けられなさそうな情報が提示される。
# 映画自体の感想・レビュー
本作はサブスク配信で見たが非常に良かった。この映画を観た人は全員が思ったかもしれないが、人間の嫌な部分が見事に映し出されていた。
妻夫木聡の、世の中にひたすらに絶望したような空っぽの表情が良かった。
この作品のテーマである「人間には裏がある」ということへの不信感、諦めのようなものがリアルに伝わってきていた気がする。彼はたぶん人間全体と自分自身にさえ絶望しているのだ。
満島ひかりを見たのは配信で見た「茜色に焼かれる」の主演以来だったが、流されやすく、主体性がなく、病んだまま不幸になる女の役が馴染んでいた。
後味の悪い映画ということを理解して観た
観る前に様々なレビューを拝見してから観ました。
皆さんのおっしゃる通り、後味悪い映画でした。
救いがない。
承知のうえで観ても、やはり、、、
それでも何故観たのか、
それはシンプルに
満島ひかりが好きだからだ。
なので、最近は満島ひかりが出ている作品、映画、ドラマをマラソンを走るように見ている。
この作品もマラソンの通過点の一つなのだが、
本作は平坦な道ではない。
登り坂のような道でもない。
例えるなら、アスファルトのような舗装された道でもなく、ぐちゃぐちゃな沼地を走ったような感覚だ。
沼地を出た後も、足には泥水や砂が残る。
見終わった後も、負の感情が残る。
私がこれまで観てきた満島作品はどれも、ハッピーエンドだった。
私はハッピーエンドの作品が好きだから、普段からこの手の作品は見ないことにしている。
まぁ、これもエンタメ作品だ。と割り切ろうと。
自分に言い聞かせる。
満島ひかりも妻夫木も他の役者も演技はGOODだ。
映画最高!
外部生である被害妻の心理
華やかな目立つ内部生の事を、難関大であればあるほど地頭が良くなければ到底合格なんて出来ない一般入試突破の外部生からすると心の中では馬鹿にしている人が大半ですが、
映画の中で、満島ひかりと一夜を共にした彼の「金持ちのボンボンって言われるけど好きで決めた人生でない」という言葉が響いた!
被害者の妻(松本若菜)は、憧れられる存在ではあるけれどそもそも外部生であり、別荘での内部生同士の幼少の頃の話には相槌を打つくらいで入れないんだなって感じた。
なのでちやほやはされても家柄の劣等感、頭や美貌は優越感・・・などの捻くれた感覚になっているから、臼田あさ美や満島ひかりの存在が大きくなると意地悪をしたくなるのでしょうか。元から内部生だったらそんな感情もなく殺害されることもなかったのでは。
それにしても、さすが女優さんたち!当時は30歳過ぎての女子大生の役、可愛いですね。
個人的に妻夫木聡の「冒頭でのバスでわざと足が悪い芝居をするところ」「臼田あさ美を撲殺後、元カレのたばこの吸い殻を入れるところ」が好きです!!
愚行ドミノ
情けは人の為ならず。他人への善き行いがいずれはまわりまわって自分に帰ってくるという諺。これを描いたのがハーレイ・ジョエル・オスメント主演の「ペイフォワード」という作品だった。
オスメント演じる主人公が三人の人間に親切な行いをする、その親切を受けた三人がそれぞれまた三人に親切を行う。それが延々と続けば世界中の人々が幸せになり、そして最初に親切にした行いが自分にも帰ってくるという理想を描いたお話。
ではこの逆はどうだろうか。一人の人間が自分の利益のために他人を利用して傷つける。傷つけられた人がまたほかの人間を傷つける。これが延々と続けばやがて最初にした行いが自分に跳ね返ってくるのではないだろうか。
主人公で雑誌記者の田中武志は一年前に起きた一家惨殺事件の再取材を試みる。おりしも彼の実妹の光子が保護責任者遺棄の罪で逮捕された時期でもあった。
知人友人から聞こえてくる被害者夫婦の評判はけして良いものではなかった。夫婦の共通点、それはともに庶民の出であり、そしてこの社会で自分が幸せになるためであれば平気で他人を利用し傷つけて生きてきたことである。
ただ、彼らのしてきたことは見ていて不快なものではあるが、殺されるほどの悪行とまでは言えなかった。
これは不幸なめぐりあわせだったのかもしれない。事件は妻の友希恵に利用されて嫉妬心や絶望感で心が壊れてしまった光子による犯行だった。それはけして許されるものではないし、彼らが光子によって殺されて当然だとはとても言えないだろう。
ただ、ペイフォワードで描かれた理想社会とは真逆の社会をどうしても想像してしまう。日々行われるたわいもない愚行、それらは一つ一つは些細なものかもしれないが、それらが積もり積もればどうなるのだろうか。誰もが他人を押しのけ自分だけが幸せになればいい、他人を利用し自分だけが勝ち組になれればいい、そんな世知辛い世の中で、ただ利用され傷ついた人の心はどうなってしまうんだろうか。不幸な生い立ちを持つ光子の体にまといつく無数の手、それはやがて彼女の体を覆いつくし地の底へ引きずり込もうとしてるかのようだった。
誰もが子供の頃一度はやったドミノ倒し。ドミノの力は実はすごくて並べれば並べただけ力は増幅する。ピンセットでつまむような小さなドミノから順にサイズを大きくして並べれば大人のサイズくらいのドミノを倒せるまでに。これがもし延々と続けばそれはビルをも破壊する力にまで増幅するという。
自分の最初の善行が世界に波及し、やがて自分に帰ってくるように、自分の行った些細な愚行がやがてこのドミノ倒しのように悪意が増幅されて自分に帰ってくるなんて想像したら恐ろしい。
世界中で殺人や戦争が途絶えた時期は人類史上いまだかつてない。もしかしたらこんな愚行ドミノによって増幅された悪意が殺人や戦争を引き起こしているのかなんて考えてしまう。
延々と続く愚行ドミノ。こんな負の連鎖が途絶えることのない社会は悲しすぎる。ただ、作品冒頭でバスの席を譲れと言われた武志はラストで自ら席を譲る。
これは延々と続く負の連鎖を止められることを示唆したものと解釈すればいいのだろうか。妹の罪を隠すために殺人を犯してしまった武志は自分の罪を償いこの愚行ドミノを止めることができるのだろうか。
大学でのヒエラルキーが切ない
1年前に発生した一家惨殺事件を再調査する記者の取材を追う物語。
映画は二つの物語を軸に進みます。メインの惨殺事件の取材。事件直後では語られなかった被害者家族に対する証言をもとに、被害者と証言者自身の醜さを描きます。
もう一つは、主人公と妹。娘を虐待して逮捕された妹。主人公達も虐待された過去から、救いようのない虐待の連鎖を描きます。
映画は犯人逮捕に繋がる推理物ではなく、「人間の醜さ」をこれでもか・・・と描写した人間ドラマ。
シリアスなサスペンスに人間ドラマは付き物ですが、それでももう少しサスペンスよりの映画を観たいと思いますが・・・邦画は人間ドラマに寄せたものが殆どなんですよね・・・
私的評価は普通にしました。
日本は格差社会じゃなくて階級社会!?
人間は生まれながらにして人生が決まってる・・・を否定したいけど、それがかなわぬ現実社会。ストーリー的には未解決事件のオチが読めてしまったけど、父親による性暴力にも耐えお坊ちゃん大学に何とか合格できた光子(満島ひかり)のエピソードはちょっと気分が良くなった。大学に入ってから憧れだった女性と仲良くなるものの裏切られたという悲運。
階級社会・・・カースト制度みたいなものか?大学でも付属学校からのストレート組(内部生)と大学一般入試からの外部生との差別化。同じ大学なのに階級があるんですね~しかも成績による振り分けじゃない、単に育ちの差別化。一方では、光子と兄の田中武志(妻夫木聡)の不幸な家庭環境を描き出し、順風満帆なお坊ちゃまお嬢ちゃまたちを対照的に扱っていた。
ちょっと気分が悪くなるような結末ではあったけど、結局は性に奔放な若者たちが代償を払ってないのも気になる。レイプ事件も多く報道されてますけど、それがないから個人的な恨みで犯行に走っちゃった・・・といったところか。
悪ばかりでどこにも正義はないのか?と沈んだ気持ちになるものの、冒頭と終盤におけるバスの出来事が見事にコントラストが効いていた。乗客の酒匂芳が「席を譲ってあげなさい」と注意して、妻夫木聡が脚を引きずる演技をする。そして最後のバスでは自分から妊婦に席を譲る姿。最期に善行をするということは、自分が宮村淳子(臼田あさ美)を殺害した件で自首する未来をも予感させる。それも妹光子との間に出来た子の死が影響しているのかも・・・
夏原(市川由衣)と結婚し、一家殺人事件の犠牲者となった田向(小出恵介)。彼自身もまた慶應義塾高校から慶応大学に進学した内部生だったのか。そして不祥事のため・・・と、色々あったけど最近役者として復活するみたいなので期待しよう。
誰が一番悪い⁈
また不幸な生い立ちの兄妹の話。
誠か嘘か、
親父にやられたのか、
兄にやられたのか、
家族による性暴力を受けた女性が、
大学入学して心機一転、
過去を捨てて新しい自分になろうと
頑張っていたのに、
友と言えるかどうか、
善人のベールを被った人間に
犯罪であるべきことをされながら、
告発できずひっそりと暮らしながら、
あるきっかけで、
人生を大きく狂わせてしまう。
その原因を突き止めようとしたのかどうか、
その兄も道を踏み違える。
悪い人ばかり出て来るお話。
虐げられた妹、ももっとどうにかできなかったのか⁉️
闇闇闇
人間の闇を立て続けに見せられたなあ。ただどこかで聞いたことあるような、そんなにありえないほどでない闇。人の闇。飲み込まれていく。
胸糞悪くなる映画で紹介されていたが、その通りではあった。
が、人は闇を持っているものではある。。
悲し過ぎる映画でした
愚行録、タイトル通り本当に愚行なんだけど、あまりにも悲しい。兄は妹のためにどれだけの愚行を繰り返しているのだろう。虐待で亡くなった子供をなんとか産みたかったのは、唯一,心を許していた兄の子供だったからなんだとわかった時,悲し過ぎると思った。兄も妹を慰めたくて抱いたんだろうな。そして子供が死んでしまった時の2人はなんとも言えない安堵の顔だった。
一方、この兄妹を取り巻く人間たちの愚行は,なんと下衆なことだろう。壊れてしまった妹を守るため,兄は生き続けるのだろう。
救いがないこの映画だけど、嫌な感じはなく悲しみに包まれるのは、主演の2人の演技力かもしれない。個人的に満島ひかりちゃんが好きだからかも。
登場人物の大半がクセのある人間で最後まで飽きることがなかった。 一...
登場人物の大半がクセのある人間で最後まで飽きることがなかった。
一家惨殺事件の被害者の男がかなりのクズ男で笑うしかない。
主人公の男もなかなかのサイコパス。
一見の価値のある作品。
闇と傷
週刊誌記者の山本武志(妻夫木聡)は、1年前の未解決殺人事件を
再調査していた。
彼は実は犯人を知っていて、その犯人と疑う人物の確証を掴むために
再調査していたのではないのか?
私は観終えて、そんな感想を持った。
事件①
一年前。
エリート会社員・田向(小出恵介)妻(旧姓・夏原さん)と女児が惨殺された。
山本は田向と妻の交友関係を調べて人となりを探ってゆく。
すると田向は女友達を次々と変えて、ガールフレンドの父親の伝手で
就職を画策したりする男だった。
妻の大学時代の学友の宮村(臼田あさ美)からは夏原さん(田向の妻)の
良からぬ噂と恨みつらみを聞かされることになる。
大学の内部生と外部生のヒエラルキーは置いておくとして、
宮村は恋人中村倫也)の心変わりが夏村さんのせいだと考えている。
宮村と面談を重ねるうちに、
「夏村さんから酷いダメージを受けた女子学生がいた」
との証言を得る。
事件②
山本光子(満島ひかり)は父親の知れない子供を出産して、
その後その乳児が頭に酷いダメージを受けたことから、乳児虐待を疑われて
収監されている。
精神状態に異常がみられて精神鑑定を受けている。
光子は実は武志の実の妹で、小学校高学年から実父の性的虐待を受けていた。
兄の武志はそのことを薄々気付いていたが、自身も父親から暴力を振るわれ
高校3年になったある日、父親をボッコボコに痛めつけて、
それをキッカケに父親は家を出て行く。
拘置所に何回も面会に行く武志。
武志の鬱屈と心の歪みは、見ていても痛ましいほどだ。
妻夫木聡は冒頭の、バスで老女に席を譲るように促されて立ち上がり、
通路でよろけて這いつくばり、降車後は大きく足を引きずる。
バスが遠ざかると健常者として普通に歩行する。
彼の心の歪みをまざまざと見せつけるシーンだ。
宮村の証言の女とは?
光子は父親の失踪後勉学に励み夏原さんや田向や良家の子女が多く通う
有名大学に進学する。
夏原さんとその取り巻きに憧れを抱く。
光子は美しかったからヒエラルキー最下層ながらも夏原さんから
仲間に入れて貰う。
しかしそれが実は、良家のお坊ちゃんたちの性奴隷的ポジションだった。
夏原さんは男の子たちに光子を斡旋して利用していた。
その宮村の証言を無表情に聞いていた武志は、突然近付き宮原を
撲殺する。
さらに光子の弁護士橘(濱田マリ)が武志と光子の母親の再婚先に向かい
聞いた事実は時雨劇的だった。
光子の子供の父親は武志なのだった。
証言から浮かび上がる田向夫妻の裏の顔と実像にも驚くが、
武志と光子の心の傷と闇の深さにも驚愕する。
この映画(原作小説)は実は現実にあり得ることで、様々な事件の背後には
こんなあり得ないような闇の事実が潜んでいるのではないでしょうか?
人間の負の感情の強さと、それが増幅する様はリアルでした。
石川慶監督はこの後「蜜蜂と遠雷」を撮り、
妻夫木聡を主役に「ある男」で、高い評価を受ける。
冷静な犯罪に底知れぬ恐怖感
真相が分かってくるほど、気持ちが沈むが、引き込まれていく。主人公の目線を通して、種明かしをしたい気持ち。そして、そういう落ちかい。実は主人公も、もちろん妹も歪んでいたんだ。
でも、その歪みって誰でもあって、登場人物もおかしいと言えばおかしいかも。たとえ犯罪にはならなくても。登場人物それぞれについて語り始めたくなる。
不安定な感じのカメラワーク、犯行を見せず語らせる構成は原作なのか? パッチワークのようにつないでいく構成は秀逸。
満島ひかり最高!!
光子の唯一の希望は「好きな人と、好きな人に似た赤ちゃんと3人で暮らしたい」。
光子が子どもを産んだあと、兄は妹と赤ちゃんと一緒に暮らしていなかったようだ。
(原作では描写があるのか、読んだ方は教えてください。)
酷い環境で育った妹にとって、一人で子どもを育てることは難しいだろう。そんなことは容易に想像できたはずの兄が、妹と赤ちゃんを放置していたのか?
だとすると、光子のネグレクトと、二人を放置した兄の罪は根が同じだ。
冒頭のバスのシーン。兄は他人を傷付ける人間に対して、罪悪感を与える形で報復する。
同じ思考で、妹との間に子どもをつくり、放置した自分への報復として、罪悪感を持ち続けることを自分に課しているように見えた。
光子の無垢で饒舌な独白シーン。あの調子で、光子は兄に一家惨殺事件の真相を語ったはずだ。
二人は2つの秘密(千尋の父親と一家惨殺事件の真相)を共有した。
そして兄は光子の罪を自分の罪として丸ごと引き受ける。真相を隠蔽するためならどんなことでもする。
固い絆で結ばれた秘密の共有。それが光子に残されたたった一つの生きがい。独白のシーンで、光子の“これは大好きなお兄ちゃんとの二人だけの秘密だから、精神科の先生に言わないように気をつけなきゃ”って表情が、全てを物語っていた。
千尋ちゃんが亡くなったと聞いても、“秘密が一つなくなっちゃった”くらいの反応だった。
さて、慶応組と早稲田組はどちらも傲慢で下劣なエセエリートたちだった。「ああはなりたくない」のはお前たちのことだよ。
ラストのバスのシーン。狂気は我々の日常に潜み、平凡な顔の乗客に混じっている。
人間の本性をえぐる作品
人間とは優しく美しくしかし醜く悲しいものです。人間の醜い部分をまじまじと描く作品です。日本映画は暗いものが多いが、この作品は暗いがしっかり響く。そんな重厚感ある作品です。ただ怖いし、悲しい。
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