劇場公開日 2017年6月17日

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「不親切」キング・アーサー アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0不親切

2017年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

怖い

興奮

近くにある映画館では 3D 版の上映がなかったので,2D 字幕版を鑑賞。マドンナの元夫の監督が,シャーロックホームズを格闘家にしただけでは物足りず,今度はアーサー王の伝説に手を加えようとしたらしい。アーサー王の物語は,日本での認知度はかなり低いと言わざるを得ないが,西洋諸国では日本での桃太郎並みに非常によく知られた話である。これに手を加えようというのだから,賛否両論になるわけだが,どちらかというと否の方が多い出来ではないかと思った。邦題は,「キング・アーサー 聖剣伝説」という原案だったが,「聖剣伝説」というゲームを販売しているスクエニからクレームが来たらしく,「キング・アーサー」だけになったらしい。

アーサー王の物語は,成長して岩に刺さった聖剣エクスカリバーを引き抜くところまではあまり面白い話がないと思っていたのだが,本作はむしろアーサー王が生まれて成長する過程の方に非常に重点を置いた作りになっていた。聞くところによると,全6部作になる予定で,本作はその1作目だという。アーサー王の父ユーサー・ペンドラゴンが不慮の死に見舞われる原因に重点を置いてあるが,本来のアーサー王伝説にはない話で,ヴォーティガンはペンドラゴン家の者ではなく,ユーサー・ペンドラゴンの兄コンスタンス2世を殺害して王座を奪った実在の人物である。いくらアーサー王の伝説には定本がなく,様々なバージョンがあると言っても,これはかなり思い切った改変である。

アーサー王と言えば円卓の騎士が有名で,日本で言えば真田十勇士のように各騎士の名前が知られているのだが,この騎士の数も伝承によって相違がある。有名なところでは,トランプのクラブ(♣︎)のジャックのモデルになったランスロットや,ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」にも出てくるトリスタンなどが特に知られているのだが,本作ではそれらの騎士についての説明はほぼ皆無で,それぞれの人物が何者なのか,なぜそれほど重要な扱いを受けているのかが全く分からなかった。極めて不親切な脚本であるという他はない。

見所はと言えば,聖剣エクスカリバーが本領を発揮してものすごい威力を見せるところだが,全編の中でほんの僅かでしかなく,あとはただひたすら暗い画面で物語が進行するのみである。敵の裏事情にも立ち入った話は興味があったが,あんな代償を払ってまで王になって何が嬉しいのかと全く同感できなかった。役者は,主役と適役を交換した方がいいのではと思えるほど,主役に魅力が乏しく,適役の方が生き生きしていた。また,某有名サッカー選手が出演していて驚いたが,彼の演技は,彼の妻の歌唱力と同じくらい微妙に思えた。:-p 音楽はやたら耳に残るものの,全く好きになれなかった。

演出は,まず気になったのが登場人物たちの服装で,どう見ても現代風の衣装にしか見えなかったことである。ワーグナーの聖地バイロイトの祝祭歌劇場では,戦後の再開時からそれまでの伝統的な演出を一切やめて,抽象的な舞台セットにパリコレのファッションショーのような衣装を着て演じられるようになってしまったのだが,その理由は,ヒトラーの好みだったという理由もあって,戦時中にナチスドイツが兵や国民の戦意の高揚にワーグナーの楽劇を活用し,ナチスのイメージに深く染まってしまったのを払拭するためという切実な理由があってのことなのだが,アーサー王の物語は特にそのような事情もないのに,バイロイトを模したような現代風のコスチュームには非常に違和感を感じた。また,肝心な場面で個人的に大嫌いな爬虫類が出て来たのも気に入らなかった。6部作という話は,この出来では計画倒れで終わるのではないかと思う。
(映像5+脚本3+役者3+音楽2+演出3)×4= 64 点。

アラカン