劇場公開日 2016年4月22日

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レヴェナント 蘇えりし者 : 映画評論・批評

2016年4月19日更新

2016年4月22日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

視覚的な感動がいつしか作品のテーマへと帰結、新しい時代を予感させる映画メソッド

開拓時代の原野を這うようにして生き延びた男の2時間37分に及ぶドラマを、長尺過ぎると言う人がいる。果たしてそうだろうか?

西部の未開拓地に分け入った探索隊にガイドとして雇われた実在のハンター、ヒュー・グラスの道程に寄り添う映画は、終始一貫、映像で全部を物語り続ける。まずは、監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが絵画から着想したという明暗法が、盟友エマニュエル・ルベツキのカメラによって具現化される。彼らがチャレンジしたのは人口照明を用いた濃淡表現ではない。夜明けの空が青から白へと、松明の炎が闇夜の黒を柿色に変える色彩のグラデーションが、自然光のみで画面に焼き付けられている。方や、地上では、ルベツキが背負ったステディカムが戦闘シーンを前後、左右、上下に、しかも、パンフォーカスで追い続け、主眼のレオナルド・ディカプリオにも背景にもピンが合っている。同じ“一筆書き”でも前作「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14)とは違う奥行きが感じられるのはそのためだ。

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しかし、物語る映像が最も効果を発揮するのは、グラスが土に塗れ、鋭い牙で熊に肉を抉られ、熊の臭い息を嗅がされ、必然的に涎でべとべとになり、果ては土葬されても地上に這い出て、渾身の匍匐前進を試みる場面ではないだろうか。俯瞰であれほど美しいのに、人間がその皮膚で触れた途端、不快この上ない大自然のしたたかな素顔、二面性が、ここまでリアルに観客の鼻先に突き付けられた例はないと思う。

そうして、自然と一体化することで命を繋いだグラスが、現実では見えるはずのない永遠を垣間見るラストショットに辿り着く時、映像主導に思えた映画が、一人の男の魂の浄化を描いたシンプル且つ質のいい人間ドラマであったことに気づかされる。視覚的な感動がいつしか作品のテーマへと帰結させる。これは、今年のアカデミー作品賞に輝いた「スポットライト 世紀のスクープ」(15)に代表される脚本とテーマ主導の秀作とは明らかに一線を画す、新しい時代を予感させる映画メソッド。作品の手法と同じく、その人生を賭けて自然の尊さを訴え続けるディカプリオの悲願のオスカー受賞も、また、彼が背負った苦節とは関係なく、昨今の賞レースを賑わす実録なりきり演技を過去へと葬り去るきっかけになることだろう。

清藤秀人

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