劇場公開日 2016年10月14日

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永い言い訳 : 映画評論・批評

2016年10月11日更新

2016年10月14日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー

罪悪感にとらわれもがくダメ男を、本木雅弘が絶妙なおかしみを滲ませて好演

デビュー作の「蛇イチゴ」から前作の「夢売るふたり」まで、西川美和監督の長編映画は秘密や嘘がモチーフに使われていた。が、自作小説を映画化した「永い言い訳」は、全編が登場人物たちの本音で埋め尽くされている。しかも、普通なら表に出すことはないだろうと思えるブラックな本音だ。

死者は携帯電話に辛辣なダイイング・メッセージを残す。母親を亡くした少年は「なぜ父ではなく母なのか」と考える。そして、関係の冷え切った妻をバス事故で亡くした主人公の幸夫は、遺族らしい悲しみが湧いてこないことを自覚する。登場人物たちは、ステレオタイプではない生々しい感情を溢れさせるが、それが共感を伴って理解できるのは、「こんなふうに考えてしまう人間」の脆さや愚かさを決して否定しない西川監督の優しいまなざしがあるからだろう。

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冬に始まり冬で終わるドラマは、妻が死んだとき自宅で愛人と情事にふけっていた幸夫の贖罪の道をたどっていく。幸夫は自分の行動を恥じるが、誰にどう償っていいのかがわからない。なにせ浮気を責めるべき妻は死んでしまったのだから。妻に謝る機会も許してもらえる機会も永遠に失った幸夫は、罪悪感の落としどころがみつからずにジタバタする。その姿を、本木雅弘が絶妙なおかしみを滲ませて好演する。ダメ男演技は「海よりもまだ深く」の阿部寛といい勝負だ。

贖罪の一環として、幸夫は妻と同じバス事故で亡くなった妻の親友の子供たちのベビーシッターを買って出る。そこから始まるのは「気づき」の日々だ。子供たちとの距離を縮めるにつれ、幸夫は誰かに必要とされる喜びを知り、ある種の達成感を得る。また、泣くこと、忘れることの大切さを人に諭すことで、それができない自分の内面を覗き見ることにもなる。そんな幸夫の心象風景を、自転車で登る坂道や、事故以来伸ばしっぱなしの髪の毛を通してさりげなく物語る演出が味わい深い。

矢崎由紀子

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