劇場公開日 2016年9月17日

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怒り : 映画評論・批評

2016年9月6日更新

2016年9月17日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

単なる群像劇ともオムニバスとも異なる語り口で、次第に焙り出される残酷な定理

真の悪人とは何かという根源的な問いかけをモチーフにした「悪人」(10)で映画賞を総ナメにした吉田修一原作、李相日監督のコンビによる新作である。

酷暑が続くある夏の日、八王子で夫婦殺害事件が起こる。現場の壁面には「怒」という謎の血文字が残されるが、整形した犯人の行方は杳として知れない。一年後、東京、千葉、沖縄に素性のわからない三人の男が出現する。

千葉の漁港。家出して風俗店で働いていた愛子(宮崎あおい)は父親(渡辺謙)に連れ戻され、やがて田代(松山ケンイチ)に惹かれて、結婚を決意する。ゲイのサラリーマン優馬(妻夫木聡)は新宿のサウナで直人(綾野剛)と出会い、意気投合して同棲する。沖縄の無人島で、高校生の泉(広瀬すず)が出会うバックパッカーの田中(森山未來)は民宿の手伝いを始める。

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三つの時空で展開するドラマは決して交差しない。映画は、犯人は誰かを探索するというミステリーの話法をとりあえず遵守しながらも、個々の人間の内面で生起する深い葛藤にこそ焦点が絞れていくのである。

それぞれのエピソードは優に一篇のドラマとして成立するほどだが、単なる群像劇ともオムニバスとも異なる語り口によって、次第に焙り出されるのは、人が人を愛すること、信じることの根拠がいかに不確かで脆弱なものであるかという残酷な定理である。

冒頭の惨殺現場の目をそむけたくなる、むせかえるような密閉感に始まり、李相日は、沖縄の灼熱、東京の喧騒、千葉の静謐な大気感など、空間の把握力において抜群の冴えを見せる。だが、見終えると、「怒り」という主題の内実は、不分明なままというもどかしさも感じられる。

高崎俊夫

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