オン・ザ・ハイウェイ　その夜、86分のレビュー・感想・評価

登場人物ひとりでずっと車の中のカットなのは凄い

最初から最後まで、映像が「車の中だけ」という映画がかつてあっただろうか。今にも出産しそうな浮気相手を慰め、自宅でサッカー観戦を約束していた子供に話を合わせ、思い切って妻に状況を暴露しその後の発狂に対応、明日の一世一代の大仕事を代わりに遂行する不安げな同僚へ指示をおこない、仕事の障害が見つかればその担当者と交渉をおこなう、、、、。主人公以外の登場人物は車のコンソールに表示される相手の名前と車中に響く電話の声しかなく、一切映像には映らない。でもまさに相手の状況がリアルに浮かび上がってくる。きっと髪振り乱して怒っているんだろうな、少しほろ酔いででも不安げにいるんだろうな、１階でママに見えないところから受話器握りしめてさびしく電話してるんだろうな、、など。

そもそもこの事態になった発端は主人公の「バカ正直なほどの誠実さ」。出張先で一夜だけ供にした女性の出産に立ち会ういう気さえおこさなければこんなことにはならなかった。ただ、その一方、ところどころで主人公のこれまでの誠実さが身を助けている。代わりに大仕事をやろうとする同僚、市役所の担当官、急きょ依頼した作業員、等。これまでの彼の誠実な実績が身を助けてもいる。

最後は、職も家族も家もなくした彼にたったひとつ希望が訪れたシーンで終わる、見事なクロージングである。

アイヴァンは建設現場の基礎コンクリートにおける現場監督を任されており、約10年に渡って築き上げた実績は彼の信頼を揺るぎ難いものにしていた。
ヨーロッパ史上最大級の高層ビルを支える基礎工事の現場監督もそういった実績が実ってのものだ。

一方家庭では愛しい妻と二人の息子に囲まれ、その夜もサッカーの試合を家族一緒に見る約束となっていた。

しかし、何かが起きた。

アイヴァンはある決意を持って現場を後にし、ＢＭＷに乗り込む。

彼の向かう先は、事務所でもなく、コンクリートの製造会社でもなく、家族の居る家庭でもない。

彼は全てを捨てるつもりでロンドンのある病院へと向かっていったのだった。

アイヴァンは何を求めていたのか。
今現在の生活を全て捨ててまで乗り越えなければ、向かい合わなければ、正さなければならなかったものとは何だったのか。

彼はロンドンへの道すがら３つの事態に向き合うことになる。
出産間近の浮気相手。
明朝開始される基礎工事の準備。
浮気をしていた事を知らされた妻と、その雰囲気を察した息子。

相手の顔も見る事ができない状態で、アイヴァンは携帯電話一つを頼りに彼らと一つ一つ丁寧に、完璧に向かい合っていった。

彼にはどうしても負けたくない相手、否定しなければならない相手、全てを捨てて訣別をしなければならない存在が居た。

父親だ。

彼は父親の不誠実さ、現実逃避、「Locke」という名を汚したことを許せなかった。
その存在を完全否定すべく彼は遠くロンドンまで車を走らせたのだった。

終盤、息子のエディが今夜のサッカーの話をする。
普段はどうしようもない選手が今夜ゴールを決めたそうだ。
足元にボールをトラップし、ドリブルで敵ディフェンスをくぐり抜け、味方にパスをすることもなく、前に出てきたキーパーにも動じずゴールを決めた。
まるで馬のようだったと。

それと同じような男が居た。
数々のトラブルに一人で対応し、家族や同僚の言葉も聞かず、遂にはロンドンに辿り着いた。まるで馬のように。

勝負に勝って、試合に負けるという言葉がある。
彼はその逆だ。
一つ一つの事態は収束させたが、家族、仕事、家全てを失った。
父親との試合には勝ったが、人生の勝負に負けたのだ。

約80分。ワンシチュエーション。車の中、会話は電話相手とだけ。
展開しててもつまらない映画はたくさんあるのに、車の中だけで80分保たせたのはスゴいと思う。特に演出が効いてるわけでもなく、構図も凝ってるわけでもないのでトムハーディーの演技力、存在感がスゴいのかなと思う。
見終わり思い返せば、80分の間に色んな事が起こり、最初と最後では全く違う立場にある主人公というのは面白いと思ったけど、映画にしては地味なのかな？と思った。
こういう事ありそうだし、物事が起こる時の80分を切り取ったらもっと派手な事あるだろうなと思った。

電話でのやり取りのみで伝わってくる緊張、焦り、怒り、憎悪、悲しみ、心配、安堵。

トム・ハーディーのお髭がキュート。

期待はずれなふつうなドラマでした。
カメラワークとトム・ハーディは良いと思いました。

トム・ハーディーが好きなので、彼の演技が素晴らしいという情報を得て鑑賞。
演技に引き込まれるというよりか、実際に起こっている出来事の瞬間を垣間見たような感覚になれた。
内容としては仕事私生活含め、数人との電話のやりとりがただ続くだけで大して面白くはないのだけど、なぜか夢中になれた。
トムかっこええ。

なんだろう。個人的には趣旨がうまく伝わらず微妙に終わってしまった。最後はこうなるのかっ！って思ったくらいでしたねー。本当微妙だったかな。

絵代わりしない中で、かなり早い段階で謎もなくなり、想像の範囲内の展開が続く。
こんな映画だからこそ主演の演技は非常に重要。トムハーディは嫌いじゃないが、違和感がなさ過ぎるというか、しっくりきすぎというか。凄く全体がまとまって無難すぎる作品になってしまった印象。

テーマや境遇にグッとくる人には評価の高そうな映画かと。

映像は全く変わらないけど、どんどん
変わっていく展開に最後まで見入って
しまった！！！

車に乗って最初の信号機を曲がったら、あとは大差ない画面が続く。

それでも、ある男の人生の岐路を、86分というその時間を、緊張感を持って見ることが出来た。

物語は観る人の経験によっても感じ方が変わるだろうけど、一人で見て正解な映画だった。

トム・ハーディが抜群だった。
こういう登場人物は実在すると思いますね。

流行りのトムハーディ3連発で寝そうに
なりました。(MAD MAXとチャイルド44)
そもそもトムハーディが好きじゃなかったんだったー！と思い出して長く感じました。でも作品として新しい映画なので好きな俳優だったらおもしろいと思えたのかな。

自分を捨てた父親からの逃走。
逃げようとすればするほど、否定したい父親に近づいていくジレンマ。
2015年現在もっとも熱い役者トム・ハーディの2013年イタリア公開作品。
78点。

予想通りではあったけど、これを一本の作品としてみせる腕はスタッフ、トム共にすごい。なんか共感しまくりだった。

これを出来る実力があるから、トム・ハーディは凄い！と改めて思う一本。

アイディア勝ちの本編はさて置いて。
筋肉ジャンルにハメられがちな主演の、チャニング・テイタムとは絶対的に違う「知性」（チャニングはまたそれ！）を感じさせるのが良かった。

と言うよりマッドなマックスの底力かな。
未見なら「ブロンソン」を是非ご一見。
役者、という仕事への温度が違うんだよな…

地味ながらも、映画的な見処が多い作品。

この映画の試みは凄いですね
車中だけで引っ張っていく。
確かに絵に飽きが来る感じはあるが、緊張感があります
携帯時代の映画。
でもこの後は？
もっと大きな展開を期待したのだが、これはこれで・・・・
男の意地ですから。

同じようなシーンが続き、車外の風景もあまり変わらない。主演俳優１人が出演し、あとは声だけ。
彼は仕事、家庭をなげうって車で向かう。
でも、仕事は自分の誇りにかけて成功させようとしている。それは自分の仕事に対する責任だから。お金ではない。

彼は一つの命に対して、仕事と同じ責任を持っている。そのために車を走らせている。
その命には何の責任もないが、彼の家庭はその命の存在で無茶苦茶になってしまった。
その命は、実は彼自身の命でもある。
そして彼の行動は、彼自身の命に対して彼の父親がとった行動に対するリベンジでもある。
これが彼の人生を支える骨組みなのだ。

一見、闇雲に見える彼の行動は、だんだん話が展開していく内に説得力を持ってくる。
この説得力が主人公を動かし、電話で繋がった人も動かしている。

その後の彼の人生は描かれていないが、どう考えるのかは、鑑賞者への宿題のようだ。

たったひとりのたった一度の過ちが、同僚、上司、妻、息子、その他もろもろ沢山の人間の一晩を変える。
なかなか壮大にもつれまくるのだが、それを流れゆく街灯とテールランプの灯りそしてトム・ハーディと電話の相手の声、これだけの要素がこのドラマをつくりあげる。

電話が鳴る度、今度は何だとこっちまで戦慄。気分はすっかり同乗者。
何があったか詳しくは語られないが、父親に対して妙に反面教師的な感情を持つ彼は、あくまでも冷静に、このしっちゃかめっちゃかな状況に対処しようとする。時々爆発する感情。さすがトム・ハーディ、見事にぐちゃぐちゃな心境を巧みに演じる。

己の過ちにケジメをつけると決めた男は、妻に別れを告げられようと、長く貢献してきた仕事を辞めることになろうと、まるでこの走り続ける車と同じようにまっしぐら。

不器用で馬鹿正直な彼はこの後、生まれたばかりの赤ん坊を見て、どういう気持ちで朝を迎えたのだろう？

90分本当にトム・ハーディしか出ないけど、彼の大ファンじゃなくとも観るに値すると、個人的には思います。

本当は他の映画を観るつもりでしたが、偶然通りかかった名演小劇場が雰囲気の良い感じで時間も丁度良かったので、前知識もなく観ました。が中々の佳作といった所でしょうか。登場人物は僅か一人。車内電話でのやり取りに終始するのですが、自然と感情移入させられました。機会があれば観ても損はないと思います。