繕い裁つ人のレビュー・感想・評価
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「モノづくり」をテーマとしつつ最後には監督の映画論に至る
本作ではまず、逆光に彩られた洋裁店の作業室の美しさが目につく。ついで洋裁店兼住居の建物、そこに連なる喫茶店、教師宅の庭等々…こうしたモノの美しさを監督は穏やかだが華やかさを秘めた色彩で映像に定着させていく。
ストーリーは洋服というモノづくりで充足した生活を送る仕立屋の女性と、彼女を取り巻くコミュニティを淡々と描いていき、そこにはほとんどドラマらしきものがない。主人公は仕立屋というより、「モノづくり」そのもの、いや「モノ自体」のように見える。
モノの美しさ、モノに纏わりついた人々の日常と記憶、モノづくりに携わる人々、モノを鑑賞し利用し慈しむ人々、モノを取り巻く理想郷をテーマにした「モノ」の映画。それが本作である。
モノとヒトとは別個独立に存在するものだが、モノが意味として発現するにはヒトが介在しなければならない。するとモノには変化がなくてもヒトが変化するとモノの意味も、つまりモノ自体も変化してしまう。
チーズケーキの味が変わったのかと尋ねる主人公に対し、店主が「創業以来変わらない味だ」と答えるのは、そうしたモノとヒト、モノづくりと社会との関係の本質を描いたものだろう。ここで「モノ」を「映画」に置き換えると、本作は監督の映画論、芸術論になると思われる。
終始ゆったりと時間が流れている良作。 デパートからブランド化の話が...
終始ゆったりと時間が流れている良作。
デパートからブランド化の話があるも、常連客との付き合いを優先して断る女性仕立て屋。
内心では自分のデザインを商品化してみたいが、個別の客との深い付き合いを捨てることができない葛藤は分かる。
一見お嬢様風の主人公だが、お茶を入れる際に茶葉をぶちまけてしまったり、チーズケーキをホールで食べて幸せそうな笑顔を見せたりと素顔も魅力的だ。
じんわりときた。 洋服って、今では安く買えたり、たくさん持っていた...
じんわりときた。
洋服って、今では安く買えたり、たくさん持っていたり、流行があったりするけれど、この映画を観ると、洋服には成長があって、人生があって、老いがあって、こんなにも人生にリンクして考えたことはなかったと思う。
人生と重ね合わせると洋服もとても愛おしいものに思えた。
自分の好きな服は大事に着たいと思ったし、一生着続ける服って素敵だなぁと思った。
そして、何かを始めようとしている時にちょっとした勇気をもらえる映画でもある。
中谷美紀の芯があってぶれない感じ、洋服を仕立てるすっとした姿は素敵だったし、とても心温まる作品でよかったです。
我が街を舞台とした静かで落ち着いた大人の作品だった。 「この坂どこ...
我が街を舞台とした静かで落ち着いた大人の作品だった。
「この坂どこだ?」とか「大丸の外商はヒマ?」とか我が街ならではの楽しみがあった。
が本筋の「一生着られる服」も魅力的なコンセプト。服の力。私には縁がないが(笑)
特別大きな何かがあるわけではない、いつもならどちらかというと苦手系なのだが、本作は沁みた。なぜだろう。
黒木華、杉咲花、永野芽郁等ちょい役も豪華。最後はどこか素敵なラブストーリーでもあった。
女性に人気なのだという本作、頷けました。
服に対する思いがあふれる!美しい物語!
窓から降り注ぐ日差しの中、コトコトとミシンの音が響く。中谷美紀の美しい佇まい、神戸の洋館、そして、美しい洋服たち。とても心地よく美しい時が流れます。
祖母の跡を継いで、南洋裁店の二代目店主となった市江と、市江が作った洋服を世に広く広めたいデザートの藤井。価値観の違いから衝突する二人であったが、いつしか刺激を受けて、市江は服に対して向き合っていく。変に恋愛感情は入らず、服に対する思いに注力して書かれており、ピュアな感じがとても良かった!
着ている服で人となりがわかる!一生着れる服を、私も欲しくなってきた!
いい作品ではあるが、一点物の作品ではない
南洋裁店。
時代に取り残されたような老舗の町の仕立て屋。
先代である祖母から受け継ぎ、クラシカルなミシンで洋服を作る2代目女店主。
モットーは、着た人が一生添い遂げられる洋服を作る。
彼女が仕立てた洋服に魅了された人は多い。
馴染み客やブランド化を提案する百貨店の営業マン。
職人気質の主人公と彼女を取り巻く、“洋服”人間模様。
店主の性格は例えるなら、“頑固ジジイ”。
それでいて、洋服以外の事はほとんど何も出来ないほど不器用。お茶もろくに入れられず、起きるのは昼近く。
が、作る洋服への拘りは強い。ブランド化も拒否する。
それも分かる気がする。
ブランド化して全国に売り出すのも商法の一つだ。
でも、一人の客の為に丁寧に、端整込めて一点物の洋服を作るのもプロだ。
全員が全員、金儲けの為に洋服を作ってる訳ではない。
そんな彼女にも人知れず悩みが。
先代の存在。
町の人々に愛された先代の洋服。先代、先代…と、よく口にされる。
彼女の洋服も愛されているが、やはりそれも先代の洋服あっての事なのか…?
そんな時、営業マンが自分の洋服に惚れ込んだ理由、着てくれた人々の思いを知って…。
洋服に込められた各々の思い。
温かく、優しく、しみじみと。
中谷美紀の好演。
2015年の作品。黒木華、杉咲花、永野芽郁らその後活躍する若手女優の共演。
デザインされた洋服の見事さ。
まるでその洋服そのもののような、作品も上品でクラシカル。
いい作品である。
いい作品ではあるが…、
それ以上でも以下でもない。
静かで淡々とした作りは作品に合ってはいるが、そんな中にもグッと惹き付けられるものやメリハリに欠け、ちと話に吸引力が弱かった。
正直、少々退屈にも…。
良くも悪くもいつもの三島ワールド。
善人しか出てこないファンタジーの世界。
『幼な子われらに生まれ』の力作演出は、あれ一点物だったのか…?
穏やかに過ぎる時間
中谷美紀が祖母から引き継いだ服飾の仕事をお得意様だけにしている。
デパートの商品化を再三誘われるが、首を縦に振らない。
デパートの担当者は移動になり、妹から洋服に対する想いを聞く。
頑固な職人が静かに縫い物をしている姿は光の中で美しく映える。
芦ノ牧温泉悪い妹の為に作ったウェディングドレスがとても綺麗。
まったり
予告通りのまったり感。文字通り、「繕い裁って」いました。
もっと市江さんの、仕事とプライベートの落差があると面白いかな。プライベートはあまり映らないけど、チーズケーキの場面をもっと掘ってほしかった。あの喫茶店のマスターも声だけじゃなくて姿を映してほしい。
あのウエディングドレスは良かったね。
女子受けしそうな映画でした。
繕い裁つ頑固じじいな女、佇まいが美しかったぁ
三島有紀子監督作品は「しあわせのパン」で虜になるも、「ぶどうのなみだ」で落とされたので、さて今度は当たり外れ一体どっちが出るのか、楽しみ半分不安半分で鑑賞してみましたが・・・今度はまた当たりの方が出ましたね。
前二作のテーマであった食から一転、今度は衣をテーマにしたのが新鮮味も加味して吉と出た印象です。
仕立て屋と言う、時代の遺物と化しつつある職業にスポットを当てたのも、大いに興味をそそられた作品でした。
相変わらずファンタジー掛かった作品ではありましたが、仕立て屋と言う職業と妙に作風がマッチした印象で、いつの間にか作品の虜になっていました。
私は特別服に興味がある訳でもないですし、服は直すぐらいなら新しいのを買ってしまう派(現代は大多数がこっち派になってしまいましたよね)なので、もう仕立て屋と言う存在そのものすら忘れていましたよ。
しかしこの映画を見ていたら、一生着れる服っていいものだなぁと、素直にそう思わされました。
夜会はさすがにどうかと思ってしまいましたが、全体的には説得力も十分で、一生物の服に憧れを抱きましたね。
今までは一張羅と言える服が紳士服の○○で2着目以降半額のスーツでも全く問題ないと思っていたんですけど(苦笑)
また中谷美紀が演じた頑固じじいと揶揄される主人公・市江の佇まいが、とにかく抜群の雰囲気を醸し出していて、思わず見惚れてしまうんですよね。
まさしく職人肌、でも他は何も出来ない辺りのギャップが妙に可愛らしかったぁ。
しかし好物のチーズケーキをホールごと食べる豪快さにはビックリ、でも人はどこかで息抜きをしなければ生きていけない生き物ですから、彼女にはあれが必要なんでしょうね。
チーズケーキの味に関するエピソードは、何気に印象的でした、話の持って行き方が絶妙です!
しかし人が服を美しく見せるのではなく、服が人を美しく見せる、何かとてもいい話でしたね。
市江の苦悩・葛藤から辿り着いた結末にも、思わず納得、後半から登場の黒木華の使い方も完璧でした。
大人達との対比的に使われた女子高生3人組が、杉咲花、小野花梨、永野芽郁だったのも何気に豪華でしたね。
まあ少々あざとさは目に着く作品でしたけど、大人が楽しめる、とても味わい深い映画だったなと思いましたよ。
静けさの中
静かで美しく丁寧。
衣擦れの音や、ミシン針が布に刺し入る音、木の床に響く靴音など、普通の映画だったら邪魔になってしまう『雑音』が、この映画の中では『大切な音』となっていた。
洋服を何度も仕立て直して着る。大切にする。
とても素敵なことだ。
そして、現代ではなかなか無いこと。
モダンとされる洋服も、現代っ子にとってはダサい。
そして、高い。
ペラペラだろうと縫製が雑だろうと、安い流行の服を何十着もとっかえひっかえするのが『ファッションの中心』である今、仕立て屋どころかミシンのある家さえ珍しい。
直してまでずっと着たくなるような服とは、出会うチャンスが無い。
ときめくチャンスが無いのだ。
私は安い服でも何でも、破れたりほつれたら自分で縫うが、周囲には「え?なんで?新しいの買えばいいじゃん」とサラッと言われる。
直すこと自体がすでに『イケてない』ようだ。
そういう価値観の人も、この映画をきっかけに「こういうのも素敵だな」と思うことができれば、それこそ素敵である。
世界に一つだけの服
Ready-madeの服しか着たことないけど、その人の顔を思い浮かべながら仕立てられたたった一つの服を、一生大切に着られることは幸せなことだと思う。その人亡き後も、その人を思いはせられる。
わからなくなるんじゃないかしら、本当に好きなものが。
映画「繕い裁つ人」(三島有紀子監督)から。
「しあわせのパン」「ぶどうのなみだ」に代表される、
三島有紀子監督らしい映画、という表現がピッタリの作品。(笑)
言い方を変えれば、作品の出来、不出来ではなく、
私のアンテナに引っかかる台詞が多い、ということ。
そんな中から選んだ、今回の一言は、
図書館で「服の本ばかり」選び、勉強している男性に、
洋装店の2代目店主・市江さんが、諭すように呟いた台詞。
「そんなにあったら、わからなくなるんじゃないかしら、
本当に好きなものが。」の一部。
服に関しても、専門の知識は、ある程度必要だし、
いろいろなジャンルの服を試してみたくなるのもわかる。
だけど、情報がありすぎて、あれもこれも・・と試していると、
本当に好きなものが見えなくなってしまうわよ、と理解した。
これは、私たちにも言える。
自分が一生続けたい、分野、ジャンルは見つかったけれど、
その中でも何をしたい、というものが見つからず、
とにかく関連書籍を読み漁るけれど、余計にわからなくなる。
「広く浅く」より「狭く深く」の方が、人生が豊かになるわよ、
そう教えられたようなフレーズだった。
残り少ない人生、もう雑学はいらない。
そろそろ、一つのことにに集中しようっと。
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