劇場公開日 2014年6月6日

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グランド・ブダペスト・ホテル : 映画評論・批評

2014年6月3日更新

2014年6月6日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほかにてロードショー

ヨーロッパ趣味を全開にしたウェス独特の世界がもたらす幸福感

まるで名人パティシエのお菓子を口の中に放り込んだときのような、ふわーっと広がり、ずーっと味わっていたくなるような幸福感。こうして思い出すだけで、口角がにゅっと上を向いてしまう。いや、ウェス・アンダーソン監督の作品はいつだってそうだった。だが今回は、新機軸でワクワク感、うひょうひょ感、うっとり感が倍増し! この面白さと新鮮さは、ヨーロッパのストーリーテリングと美意識をもって、ウェス・アンダーソンが彼独特の世界を構築しているところから来る。つまり監督がヨーロッパ趣味を全開にしているのだ。

オーストリアの作家ツワイクにインスピレーションを受けたという監督は、ノスタルジックな回想形式で物語の幕を開ける。舞台は東ヨーロッパにある架空の国。現代の作家が情緒ある古いホテルのオーナーから昔語りを聞く60年代と、その物語が展開する30年代という入れ子構造で、時代ごとにスクリーンサイズが変わるという懲りようだ。

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30年代、ホテルの上客だった老マダムが急死し、彼女にとって(そしてほかの多くの老女性客にとって!)最愛の男だった伝説的コンシェルジュに殺人容疑がかかる。彼を慕う新人ベルボーイをも巻き込んで、繰り広げられる奇妙な冒険。スラップスティックなコメディでありながらミステリーであり、世間からちょっとズレた人間同士の親子のような愛情も味わい深い。ここにルビッチやスタージェス、オフュルスといった監督たちへのオマージュを見つけることもできるだろう。ウェス組の豪華スター俳優たちが嬉々としてチョイ役を演じ、現れては消えていくのも贅沢なお楽しみ。もちろんウェス印の構図や撮影も健在だし、虚構世界の醸し出す幻想性が強まって、心をくすぐる。何より、ミニチュア感満載のピンク色をしたホテルとお菓子ボックス、夢のような色彩のインテリアなど、プロダクション・デザインのかわいいこと、素敵なこと!

ツワイクやルビッチに負けないくらい、この映画に大きな貢献をしたのがロケ地となったドイツ東端の町、ゲルリッツだ。訪れたことがあるが実際にピンクのホテルがあったり古いパステル調の家々が並んでいたりして、監督がインスピレーションを受けたことは想像に難くない。ヨーロッパ旅行の折に、訪ねてみてはいかがだろうか。

若林ゆり

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