劇場公開日 2014年1月18日

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MUD マッド : 映画評論・批評

2014年1月14日更新

2014年1月18日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

この映画には現代社会の閉塞感を破るヒントが転がっている

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アメリカ中南部、アーカンソー州の田舎町が舞台。映画にでも撮られなければ誰の記憶にも残らず、ただぼんやりとそこにあるだけの、時代から取り残された田舎がそこにある。映画の中で重要な風景となる川は、何かをそこに運び込み運び出してくれるものでありながら、しかしその源やその先を見晴らしよく見せてくれるわけではない。

「その後」を胸いっぱいに抱えた若者たちにとってそんな場所で生きていくことは、何ともやりきれないことであるだろう。そのまま川べりで干からびて永遠に続く諦念のかけらとなるか、時々川を濁らせる泥になって川底にうっすらと堆積していくか、そのどちらかの未来しか見えず、そうやって生きてきた大人たちが目の前にいる。その風景と彼らの姿をじっと見ていると、息がつまりそうになる。そこには単なる「死」があるだけなのだ。

しかしもちろん、何もかもが自由に流通して見晴らしのきいた現代社会にも、どこかこの映画の閉塞感がぼんやりと貼りついているように思う。この目くるめく情報の流れは、われわれをその先に運び出してくれるものだというよりも、今この場所へとぼんやりと押し込め続ける何かとして機能してはいないだろうか。この映画を観ているうちに、世界から見捨てられたアメリカの田舎で暮らす人々こそ私たちのことだと思うようになるだろう。その時、私たちにとって何が必要か、この映画の中にそのヒントが転がっている。

樋口泰人

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