劇場公開日 2013年7月6日

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25年目の弦楽四重奏 : 映画評論・批評

2013年7月2日更新

2013年7月6日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー

映画界屈指の名優たちが奏でる、人生の苦悩と再生の調べ

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ウォーケンホフマンキーナー……。映画ファンには言わずと知れた名優が揃い踏み。その身一つで存在感をいかようにも変えられる彼らが、あえて四重奏団員という難しい役柄へと魂をチューニングさせる。その結果、彼らは演技と演奏という2つの要素を齟齬なく共鳴させ、さらには25年に及ぶ人間関係のハーモニーをもさりげない仕草で濃厚に際立たせていく。これぞまさに音楽を奏でるように紡がれた映画だ。

とはいえ、本作はクラシック音楽の知識なくとも充分に蜜を味わえる人間ドラマである。四半世紀といえば大方の荒波や衝突を乗り越えて、海原に穏やかな風が吹きはじめる時期。しかしそこで飛び出すチェリストの引退宣言が波紋を拡げる。その弾みでこれまで抑制してきた団員の軋轢も一気に噴出。楽団はあわや解散かという事態にまで切迫する。

奇しくも25周年コンサートの演目は、ベートーベン晩年の名作「弦楽四重奏曲第14番」。全7楽章を途切れなく奏でる難度の高い曲だ。いったん走り出すと途中で調弦が狂っても修正は叶わず、4人でその世界感をなんとか<狂った中での安定>へと着地させなければならない。正解など何もない。人生と同じくその僅かな歪みにこそ深い味わいが生まれるというべきか。

時に鎮魂歌のように厳かに。また弦を激しく躍動させ呼吸をぶつけ合う場面もある。しかし来るべきクライマックス、まさかこれほどシンプルかつドラマティックな幕切れが用意されていようとは。その瞬間、ステージ上で一つの時代の終焉と、そして新たな再生とが巻き起こるのを目撃した。変化を恐れず未来へ手を伸ばす四重奏団に心から拍手を贈りたいと、思わず立ち上がりそうになるほどだった。

牛津厚信

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