劇場公開日 2014年3月15日

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ドン・ジョン : 映画評論・批評

2014年3月11日更新

2014年3月15日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー

ポルノ大好き男の成長を描いた、新人監督ゴードン=レビットの新境地

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「何も言わずに出す。セックスの傾向が見えるぜ」
 安野モヨコの漫画「働きマン」の主人公の心の台詞だ。気の合わない男と仕事中、車の助手席に座りきらないうちに、何も言わずに車を発進された時に彼女はそんな風に男を観察していた。この映画の主人公についても運転とセックスを結びつけて語れるだろう。ジョンは教会へ向かう車中でも、制限速度を守る前方車を口汚く罵りながらでないと運転できない男なのだ。

ジョセフ・ゴードン=レビットが初監督と主演を務めた「ドン・ジョン」で描くのは、女性とのセックスよりもポルノ動画で自慰する方が好きという男が、真実の愛を見つけるまでの葛藤。「(500)日のサマー」とは真逆の肉食男子を自ら演じている。

イケメンでコミュニケーション能力も高いジョンは、ナンパをすれば大抵成功、セックスまで簡単に持ち込める。しかしそれより、自分でヤる方がずっと気持ちいい。なぜなら彼は、どこまでも自分本位な男だからだ。ネットでは簡単に理想の女とプレイ内容が見つかるが、リアルではそうはいかない。どれだけ言葉が上手くイケメンでも、一方通行の欲望を相手に押しつけるだけのジョンは2人で幸せになる方法を知らないのだ。

人生で一番のセクシー美人、バーバラ(スカーレット・ヨハンソン)とつき合ってもポルノ鑑賞を止められない。一方のバーバラも、理想の恋人像をジョンに押し付けるばかり。ポルノを見ないという約束を守れず破局を迎えたジョンの前に現れるのは、ワケありな年上女性のエスター(ジュリアン・ムーア)。突然ポルノDVDを差し出したりする彼女の言動に眉をひそめながらも、ジョンは彼女から自分に欠けていたものを教わることになる。

娯楽も情報も氾濫して、自分好みの環境に沈溺しやすい現代社会。他者とのコミュニケーションを取らなくてもそれなりに充足できてしまう社会に僕らは生きている。だからこそ、ジョンが見つけた答えは同時代を生きる僕らにとっても大切なものだ。他者と関わる素晴らしさに気づけば、人生はより豊かになる。これはポルノの話などではなく、前向きにより豊かな人生を掴み取ろうとする男の成長物語なのだ。

こうしたテーマを説教くささも感じさせず、肩の力を抜いて見られる上質なコメディとして撮り上げた新人監督ゴードン=レビット。その手腕はなかなかのもの。好青年なイメージも自らの演出によって払拭し、新境地を拓いたといえるだろう。

杉本穂高

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