恍惚(2003)

劇場公開日:

解説

セクシーな娼婦に夫を誘惑させ、情事の一部始終を報告させることで性的快感を得る妻が、いつしか娼婦と奇妙で危うい関係に陥る官能ドラマ。「ドライ・クリーニング」のアンヌ・フォンテーヌ監督作。ファニー・アルダンとエマニュエル・ベアールが、あやうい魅力を発揮する。

2003年製作/105分/フランス
原題:Nathalie...
配給:ワイズポリシー=アートポート
劇場公開日:2004年12月18日

ストーリー

ホテルの一室で、ひとりの男がネクタイを締め、身づくろいをしている…。その頃、彼ベルナール(ジェラール・ドパルデュー)の妻カトリーヌ(ファニー・アルダン)は、瀟洒な自宅に友人たちを呼び集め、今や遅しと夫の誕生日のサプライズ・パーティーの幕開けを待ちわびていた。そんな彼女のもとに、夫から航空便に乗り遅れ、今晩は戻れないと電話が入る。翌朝カトリーヌが目覚めた頃、朝帰りのベルナールはすでに出社の準備をしていた。昨晩のことへの侘びの言葉もそっけなく、ベルナールは家を出る。だがしばらくたってカトリーヌはベルナールが携帯電話を忘れていったことを、留守録の着信音で気づく。好奇心半分で、携帯に残されたメッセージを盗み聞きしたカトリーヌだが、その表情が一変する。見知らぬ女の声で「昨夜はありがとう。あなたとの夜…最高だったわ」と入っていたのだ。その日、カトリーヌはベルナールに情事の真相を問いただす。貞淑な妻がメッセージを盗み聞きしたことに表情をこわばらせるベルナールだが、意外にもあっさりと事実を認める。これが初めての浮気ではないことまで打ち明けるベルナールは、二重のショックに打ち震える妻に言い放つ。「会話のないのは君のせいだ。…時が経てば、情熱は消える」。ここしばらく、セックスレスの関係に陥っていることを指摘されたカトリーヌは、夫の性的嗜好について何も知らなかったことに愕然とし、その夜は眠れずに過ごすのだった。翌日、カトリーヌはまるで何かに誘われるように、怪しげな会員制クラブ《SHOGUN》の扉を押す。婦人科医であるカトリーヌの診療所のそばにあるこのクラブの入口で、カトリーヌは客に媚を売っている女たちの姿をしばしば目撃していた。艶やかな照明のもとで、ふざけて嬌声をあげる女たち。おずおずとテーブルについたカトリーヌだったが、やがてひとりの女の姿を目に留める。ブロンドの長髪をたらし、身体の線を際どく浮き立たせたタイトな黒いドレス姿に、相手を射すくめるような大きな瞳、濃く縁取りされたアイメイク。その彼女が、カトリーヌの注文したウィスキーのボトルを手に近づいてきた。「一緒に飲んでもいい?」。同性さえも魅了せずにはおかない色香を湛えたその女、マルレーヌ(エマニュエル・ベアール)の美しさを認めたカトリーヌは、ある願いを彼女に頼む。翌朝、待ち合わせのカフェにやってきたマルレーヌは、昨晩とは打って変わってシニョンにシックなコート姿だ。カトリーヌの願いごととは、こうだ。「毎朝、夫の行きつけのこのカフェで、偶然を装い接近して、彼を誘惑して欲しいの」。そしてその内容を逐一、自分に報告すること。妻である自分以外の女性と、彼がどのように振舞い、行動するのか。果たして、朝のカフェでベルナールから煙草の火を借りたマルレーヌは、珈琲をすすりながら、新聞に目を通すベルナールを熱い視線で凝視するのだった。早速、初めての日の“ことの次第”をマルレーヌから聞くカトリーヌ。ベルナールから名前を尋ねられ、困ったというマルレーヌに、カトリーヌは“ナタリー”という偽名を捻り出す。「彼を惑わせて」というカトリーヌに「食いついたわ、狙い通りね」とマルレーヌ。こうして、ふたりの不可思議な契約は成立する。しかし一方で、夫が彼女を気に入ったことに、策略通りとはいえカトリーヌは動揺していた。その夜、新たな女と出逢ったはずの夫に、何らかの変化の徴候はないかとカトリーヌは探りを入れるが、彼の口を衝いて出るのは仕事の話ばかり。ベッドに入っても、カトリーヌを求めることはない。 “ナタリー”は次の報告で、思いがけず部屋まで行ってベッドを共にしたと報告し、カトリーヌは我知らずのうちに感情を昂らせる。「迫ったのは彼、まるで飢えた獣のようだったわ」。あからさまなマルレーヌの表現に、カトリーヌは怒りに任せるように席を立ってしまう。ベッドに横たわり、うつろに天井を見つめるカトリーヌは、夫との外出の約束を反故にして、マルレーヌの勤める例のクラブに向かう。カトリーヌはマルレーヌに、昼間の不愉快な別れを謝って、言葉を重ねる。「話して…その続きを」。こうしてマルレーヌの赤裸々な告白が始まる。あまりにも露骨な性の報告に、カトリーヌは平静ではいられない。「彼はすぐに抱こうとしたけど、私はじらしたの…。彼は後ろから寄り添い…私に言わせたわ、“もっと、して…”と」。次第にカトリーヌの表情に、好奇心の色が次第に露わになる。「感じたの?」というカトリーヌに、マルレーヌは冷静に言い放つ。「仕事のときは、いつも醒めてるわ」。マルレーヌの告白は、日を追うごとにエスカレートしてゆく。あたかもふたりの関係が危険な領域に足を踏み入れたかのごとく、彼女たちの企みもまた、後戻りできないものになってゆく。

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