劇場公開日 2014年10月4日

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アンダー・ザ・スキン 種の捕食 : 映画評論・批評

2014年9月30日更新

2014年10月4日より新宿バルト9ほかにてロードショー

生々しい現実感と詩的な美しさに満ちた、エイリアンの地球発見の旅路

スカーレット・ヨハンソンが地球に舞い降りたエイリアンに扮し、フルヌードを披露していることが話題のSF映画である。むろんそれを目当てに鑑賞するのも結構だが、「スピーシーズ/種の起源」でナターシャ・ヘンストリッジが見せたような肉食系のセックス・シーンを期待してはいけない。道に迷ったフリをして男たちをハントするエイリアンが誘い込むのは、漆黒の鏡と沼のごとき異空間! この奇怪なビジュアル・イメージからして、本作の並外れた独創性がうかがえる。

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あらゆる説明描写を排除し、ハリウッド的な明快さとは対極にあるこの映画の斬新さは、人間ではなくエイリアンの視点で全編を描いた点にある。いかにも男心をそそる容姿をまとった侵略者は、英語をしゃべる術もインプットされているが、人間の生態や営みに触れるのは初めてだ。これが「記憶の棘」以来の長編映画となるジョナサン・グレイザー監督は、浮き世離れした美貌の持ち主であるヨハンソンに一般人が行き交うショッピングモールやナイトクラブを歩かせ、ゲリラ的な撮影を敢行したという。実際、大半のシーンがロケで撮影されたと思われる映像世界には、SFらしからぬ生々しい現実感が吹き込まれている。

やがて人間的な感情に目覚めたエイリアンはこのうえなく皮肉な運命をたどるはめになるが、その劇的かつ繊細な変容のプロセスもセリフではなく、徹底的にビジュアルによって表現される。とりわけ終盤、エイリアンの内なる恐怖や孤独と共鳴するかのように、雨に濡れ、霧に煙るスコットランド・ハイランド地方の情景が圧巻だ。まさしくこれはエイリアンによる地球発見の旅路であり、そのスリリングにして艶めかしい軌跡にうっとりと見入った私たちは、SFというジャンルの魅惑を再発見することになる。そしてクライマックス、エイリアンが最後に“脱ぐ”行為には、誰もが度肝を抜かれるに違いない。

高橋諭治

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