劇場公開日 2011年12月23日

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ミラノ、愛に生きる : 映画評論・批評

2011年12月13日更新

2011年12月23日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー

趣味のよさに回収されず、静謐な過激を体現したスウィントンの天晴れな闘志

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鬼才デレク・ジャーマンの“アートフィルム”のミューズとして頭角を現した女優ティルダ・スウィントンは、育ちのいい英国美女の容姿をむしろ引け目とするように挑戦的な作品選びを続け、尖鋭と優雅を束ね合わせる独自の領域を切り拓いた。「フィクサー」でオスカーに輝いた後もハリウッドのコンサバな押し型を巧みに回避してスパイク・ジョーンズマイク・ミルズジム・ジャームッシュとアメリカのくせ者たちとの仕事を選んできた。そんな女優が自ら製作も務め11年がかりで実現したのが本作だ。

ミラノを舞台にオールドマネーを牛耳る一族の栄華と綻びとをみつめる映画は、ビスコンティダグラス・サークヒッチコックとメロドラマの古典に目配せしつつ、新時代の快感の表出法を探る。趣味のよさへと安易に回収されたりしないスウィントンならではの魅力が香る。見逃せないのはそこで彼女がロシアから来て名門の暮らしの中で失った自身の名前を取り戻す自己解放のヒロインの物語、「オルランド」で組んだ盟友サリー・ポッター監督作「耳に残るは君の歌声」とも通じる再生の物語を生きてみせる点だ。

めぐりあった青年の海老料理を口にふくんだその瞬間、ぷりぷりとした感触が鮮やかにヒロインを貫く。湖の底に沈んだ美しい村の伝説をなぞるように、石の館で完璧な妻、母、嫁として平らかな水面の日々を送っていたヒロインの顔に漣(さざなみ)が広がっていく。水底に沈めた自分がゆっくりと浮上する一瞬をスウィントンは表情ひとつで現出させる。鏡花の「外科室」をも思わせる密やかさゆえの官能、かそけさに宿る激情。そうやって静謐な過激を体現する機会を自身に与えた製作者スウィントンの天晴れな闘志にも触れてみたい。

川口敦子

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