劇場公開日 2012年2月4日

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人生はビギナーズ : 映画評論・批評

2012年1月24日更新

2012年2月4日より新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

誰もが心の奥に抱え続けているものを描いた「始まり」の物語

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一見特異な設定でも、いや、だからこそ普遍性が浮かびあがる物語がある。この作品もその好例だろう。妻の死後、75歳にしてカミングアウトし、人生の最後の季節を自分の心に忠実に生きた父親。そんな父親に戸惑いながらも、彼の生き方に背中を押されることになる息子の恋。父との過去と恋人との現在をマイク・ミルズが絶妙なバランスでシャッフルしながら描くのは、亡くなってもなお胸の奥に生き続ける大切な人たちへの思い。そして、他者との関係に一歩踏み出せない臆病さ。そのどれもが、誰もが多かれ少なかれ心の奥に抱え続けているものだからだ。

しかも、それを演じる3人と1匹がまた素晴らしい。クリストファー・プラマーは決してこれみよがしになることなく、ゲイ・コミュニティの75歳のビギナーのときめきに微苦笑させたり、せつなくさせたり。ユアン・マクレガーメラニー・ロランはどこか遠慮がちな恋人たちを演じながらも、この共演が縁で恋におちた2人らしく、せつなさをまといながらも艶っぽい空気をスクリーンに充満させる。迷える主人公にウィットに富んだ“心の声”で語りかけるジャック・ラッセル・テリアにいたっては、犬好きならずともその佇まいだけでハートを鷲掴みにされてしまうはず!

でも、それだけだったら、これは「なんとなく好きな映画」。身を委ねているのが心地いい、ちょっとせつない世界は、エンドマークのかわりに「Beginners」というタイトルが映し出された瞬間にとびきりの映画に変わる。過去も現在も、すべて未来に繋がっている。そこから始まる主人公の新しい物語の予感に、思わず笑顔になるはずだ。

杉谷伸子

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