ポエトリー アグネスの詩

劇場公開日:

解説

「オアシス」「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督が、アルツハイマー症に冒され徐々に言葉を失っていく初老の女性が、一編の詩を編み出すまでを描いた人間ドラマ。

釜山で働く娘に代わり中学生の孫息子ジョンウクを育てる66歳のミジャは、ふとしたきっかけで詩作教室に通い始めるが、その矢先に自分がアルツハイマー型認知症であることが発覚する。さらに、少し前に起こった女子中学生アグネスの自殺事件にジョンウクがかかわっていたことを知り、ショックを受けたミジャは、アグネスの足跡をたどっていくが……。

2010年・第63回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。2023年、イ・チャンドン監督の特集上映「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」にて、4Kレストア版でリバイバル公開。

2010年製作/139分/PG12/韓国
原題:Poetry
配給:JAIHO
劇場公開日:2023年8月26日

その他の公開日:2012年2月11日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第63回 カンヌ国際映画祭(2010年)

受賞

コンペティション部門
脚本賞 イ・チャンドン

出品

コンペティション部門
出品作品 イ・チャンドン
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映画レビュー

4.0NHKの【事件の涙】というドキュメントを思いだした どんな出来事に...

2023年9月4日
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NHKの【事件の涙】というドキュメントを思いだした

どんな出来事にもさまざまな立場や気持ちがあって、

ただの加害者と被害者だけじゃない

いつの時代もお年寄りには、

少しわがままなくらいに元気で、

そして幸せでいて欲しい

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jung

3.5言葉

2023年9月3日
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人から何かを受け取ること、
言葉で感情を伝えること、
シンプルだけど言葉にしきれないものが、
映像として詩的に表現されていた

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JYARI

4.5割り切れない

2023年8月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

イ・チャンドン レトロスペクティヴにて、初見。
冒頭から、日常の美しい風景と不穏さが同居している。
慎ましい生活と隠された暴力性、美しい言葉と禍々しい血のイメージ。
言葉の端々から想像されるとおり、ミジャもまた性暴力の被害者だったのではないか(それで生活していた?)、また姉から殺されかけたのではないか?
だからアグネスの話を聞いたときにどうしてもアグネス側にしか共感できなかったのではないか?
「実を落として踏まれることで生まれ変わる」杏はそうした女性を現しているのではないか?
そうした疑問が浮かんでは消える。
その結果としてミジャが紡いだ言葉の美しさは、アグネスの姿とともに鮮烈に観客の心に刻まれる。
割り切れないし、割り切ってはいけない傑作。

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ぱんちょ

4.5刹那の奇跡

2023年4月19日
iPhoneアプリから投稿

窓から差し込む光。赤い花の香り。ブラウスの隙間をふと吹き抜けていく風。それらが織り成す不可視の奇跡。私たちはその奇跡を逃さぬように、誰かに伝えるために詩を紡ぐ。それが形を与えられた瞬間に壊れてしまうことを知りながらも。詩を書くとは奇跡を書き留めることと同じなのかもしれない。論理的に考えてみれば達成不可能な実践だ。ゆえに詩作教室の受講者たちはそのほとんどが最後まで詩を書くことができない。受講者たちに向かって「あなたたちは真のリンゴを見たことがないのです」と詩人は言う。すなわち、詩を書くには普段とは異なる仕方で世界を吟味する必要があるということ。ただ、それはとても難しい。

一目見ただけで難解な数式を解ける者と単純な四則演算にさえ躓く者がいるように、奇跡を言葉に落とし込むセンスにも個人差がある。一篇の詩さえ浮かんでこない老女ミジャは、ある日突然言葉が溢れてきたという朗読サロンの女を羨ましく思う。自分にはどうしたら詩が書けるのか。「感じたままを書けばいいんです」。でも、どうやって?

詩作に精を出す一方でミジャの人生は緩やかではあるが確実に下降線を辿っていく。彼女は訪れた病院でアルツハイマー症候群の診断を受ける。釜山へ赴任中の娘から預かっている孫ヒョンウクは、同級生の女子生徒をレイプして自殺に追いやってしまう。相手方の母親への慰謝料を捻出するべく彼女は「会長」と呼ばれる身体の不自由な資産家から半ば恐喝のように500万ウォンを奪い取る。

美しい詩の世界への関心とは逆行するように、彼女の人生は暗く醜悪な方向に傾いていく。そしてその傾斜が強まれば強まるほどに詩への無辜無謬な期待と憧憬もまた強まっていく。彼女が卑猥な詩で聴衆の笑いを取る朗読サロンの男に憎悪を向けるのも当然だ。社会の袋小路に追い詰められた彼女にとっては詩が、詩の美しい世界だけが唯一の生存理由なのだから。

しかし皮肉なことに、詩作が対象とする領域とは無関係な領域において蓄積してきた怒りや悲しみや苦しみが結果的に彼女の詩作を可能にする。踏み潰された虫が美しい絵の具のような体液をコンクリートの上に描き出すように、彼女の人生の破綻によって彼女の詩は紡ぎ出される。そのとき彼女は既にこの世界にいない。

読み上げられる詩とともに断片的なイメージが矢継ぎ早に流れていく。それはミジャが今際の際に見た走馬灯なのかもしれない。流れゆくイメージはやがて川の上の高架に佇む少女の後ろ姿へと辿り着き、息を吞んだように停止する。ヒョンウクが死に追いやったあの女子学生だ。彼女がこちらへ眼差しを向ける。その光景は奇跡のように美しい。ミジャのイメージは詩とともにそこで幕を閉じる。

後に残るのは黒々と流れる川だ。それはかつて女子学生を呑み、ミジャの帽子を呑み、おそらく最後にはミジャ自身をも呑み込んだ。川は絶え間なく流れ続ける。一瞬前に奇跡が起きたことなどまるで知らないかのように滔々と流れ続ける。いつまでも果てしなく。

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