劇場公開日 2011年1月14日

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「巨匠だけに、もう一ひねり欲しかったです。」僕が結婚を決めたワケ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5巨匠だけに、もう一ひねり欲しかったです。

2011年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 名匠ロン・ハワード監督だけに、卒のない演出。親友の妻の浮気を目撃して、親友に打ち明けるべきかどうか、優柔不断になってしまう主人公のドタバタを描いただけストーリーを、それなりに面白可笑しく描いているところは、巨匠ならではの巧みさと言えます。
 だけど、『ビューティフル・マインド』のような名作を監督した人の作品としては、物足りないというのが正直なところ。悩んだあげくの結末が、「全てをさらけだせればいいのだ」でハッピーエンドとなるのは少々単純ではないかと思います。

 ラブコメを標榜するなら、『あなたは私の婿になる』や『男と女の不都合な真実』の後半で描かれる主人公たちの結ばれるまでの、パワー溢れる奇想天外さがあって然るべきでしょう。
 本作では、主人公のロニーは親友のニックの妻ジェニファーの浮気現場を目撃した以来、ずっとそのことに振り回され放しで、プロポーズしようとしていたベスへの告白は全くおろそかになってしまいます。それどころか、自分の悩みをベスにも言えなくて、ふたりの仲がぎくしゃくしてしまうのです。何で心から愛し信頼しているパートナーに、相談出来ないのか、画面を見ていて疑問に感じました。恋人ぐらいは親友の家庭の問題ことぐらい打ち明けてもいいじゃあありませんか。

 但しもそこは巨匠作品。ロニーがベスにもいいにくい事情を、ちゃんと用意していたのです。仕事で重要なフレゼンをかかえていたロニーは、自分のプロジェクトの技術を担当しているニックに精神的な負担をかけさくたくないという思いやりから、浮気のことを言い出しかねていたのです。でも、それだけでは、ベスには関係ありません。
 実は、ニックの妻ジェニファーとニックは、学生時代に成行から一度だけ関係を持ったことがあったのです。ジェニファーから浮気のことを夫にばらしたら、以前の関係をばらすぞと脅されて、口ごもってしまったという経緯があったので、ベスにも口ごもってしまったのでした。

 ジェニファーにロニーが問い詰めた時、ニックにも問題があったことを明かされます。仕事が忙しくて夜の夫婦生活が途絶えてしまっているのなら我慢するけど、夫が内緒で風俗マッサージで、手こぎで抜いて貰っていることには、我慢ならないというのです。ニックを尾行したら、ジェニファーのいうとおりでした。しかも無二の親友の自分にも、嘘を突き通すニックに、ショックを禁じ得ませんでした。
 皆さんだったら、ニックとジェニファーとどちらが罪深いと思われるでしょうか。

 ジェニファーの結婚生活にはいろいろ裏があるのよという言葉にも、ショックを受けたロニーなら、ここで結婚に懐疑的になってしまうという展開もあって然るべきでしたが、ベスへの思いは変わりませんでした。

 ところで面白いのは、ニックはニックで、自分に対して態度が変になったことや、時々人知れず出かけることが多くなったことから、ロニーが克服したはずの博打依存症を再発させたのではないかと思い込んでしまうのです。そして、特に可笑しかったのは、ロニーが自分の妻の浮気相手に詰め寄っているところを、尾行して隠れ見て、その浮気相手はロニーが付き合っているノミ屋だと決めつけてしまうのですね。
 ロニーの報告を聞いたベスは、心配のあまり、博打依存症の主治医と患者仲間を集めて、ロニーに詰め寄るところが面白かったです。
 ニックに本当のことを打ち明けようと思っていたのに、逆に周りから口々に本当のことを打ち明けてくれと思いも寄せぬことで責められてしまい狼狽するロニーの表情が可笑しかったです。
 まさか立場が逆転するとは思いませんでした。そして、ロニーが悪癖を再発したと思い込んでしまったベスでした。普通のラブコメでは、ふたりの関係がぎくしゃくして、疎遠になってくのが定番のパターンですが、あっさり修復してしまうのです。この辺に本作のラブコメとしての軸の弱さを感じます。むしろストーリーは、ロニーとニックの友情の厚さを感動的に描きます。だったら、もっとそちらを軸に描くべきです。少し狙いが中途半端なんですね。

 やはりロン・ハワードだったら、電気自動車の新技術をニックが開発していただけに、ふたりのパートナーのどちらかが産業スパイだったとか、もう一ひねり仕掛けて、大きな背景を伏線で持たせて欲しかったです。

流山の小地蔵