劇場公開日 2010年7月24日

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「お涙頂戴にならず、学術的なアプローチでリアル感を醸しだした本作の描き方の方が、難病の治療薬開発の必要性を強く印象づける展開になったと思います。」小さな命が呼ぶとき 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0お涙頂戴にならず、学術的なアプローチでリアル感を醸しだした本作の描き方の方が、難病の治療薬開発の必要性を強く印象づける展開になったと思います。

2010年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 実話を基にした難病もの。こういうヒューマンな映画企画に自らすすんで企画参加し、製作総指揮までこなすハリソン・フォードの心意気が好きです。

 しかし、医薬品の開発と起業というテーマは斬新だけれど、医学上の専門用語や難病のメカニズムをどうやって分かりやすく伝えるのかは気になりました。
 案の定、専門用語が飛び交う場面もありましたが、スルーしている分には
 ヒューマンドラマとして手堅くまとめられていて、意外性もありまずまず楽しめました。主人公クラウリーのおませな長女を始め、子供たちの生き生きした演技も良かったです。そして、研究がなかなか認められず、アウトロー的に生きる博士を、ハリソン・フォードが好演していました。

 ジョン・クラウリーは、製薬会社に勤務するエリートビジネスマンで、3人の子供と仲良く暮らしていました。ところが、彼の子供の3人兄弟のうち2人の子供はポンペ病と呼ばれる難病に冒されいました。平均寿命9年といわれる難病で、有効な治療薬もありません。まして、姉のメーガンは8歳を越えて、患者の平均寿命に近づいていたのです。

 ある日メーガンが危篤になったのをきっかけに、ジョンはネブラスカ大学でロバート・ストーンヒル博士にアポを取ろうとします。彼はポンペ病を研究している人物の一人で、ポンペ病治療の薬品開発を研究していました。しかし、博士は研究に熱中する余り、ジョンとのアポの約束すら忘れれてしまう有様でした。
 意を決したジョンは、大学にアポなしで押しかけて、オフになったストーンヒル博士を尾行。行きつけの酒場でやっとの思いで博士を捕まえて、こう切り出します。あなたと共に製薬会社を作って、ポンペ病の治療薬を開発しないかと。

  なんとか博士の合意は取り付けたジョンは、資金集めのために寄付金を募り、会社を辞めてベンチャー企業を設立します。愛する家族を助けたい一念で見せつける行動力には感動しました。ジョンは、治療を待つだけの受け身の姿勢ではいられなかったのですい。
 製品化に向けた事業がはじまるものの、またまた障害にぶち当たります。それはまずジョンの家庭の問題でした。
 事業所は大学の近隣でという条件を博士から契約事項に加えられたため、ジョンは職も家庭も投げ捨てて、単身で、大学のあるネブラスカ州へ向かいました。けれども別居した代償として微妙に妻とは疎遠になっていきます。
 家族のために犠牲になって頑張っているのに、その家族から、最近ぜんぜん構ってくれないと冷たくあしらわれてしまうのは何とも辛いことですね。

 何とか離婚の危機を乗り越えたものの、今度は事業資金が枯渇します。 やはり新しい薬の開発には膨大な資金がかかります。当然寄付だけではとうてい資金は足りません、そこでジョンは博士のツテを頼って、医学分野を得意にしている投資顧問会社との交渉をに望みます。しかし、条件面で博士が妥協せず暗礁に乗り上げてしまいます。博士はこれまでの研究でも、その気位の高さが徒になって、一つも製品化にこぎ着けていなかったのです。
 ジョンは、殆ど事後承認に近い形で、強引にで契約をスタートさせ資金調達します。

 次のハードルは、製薬テストでした。ここでも資金の追加が必要なのことと、他の製薬会社でも、ポンペ病の研究進めていて、資金力で先を越されてしまう可能性があったのです。
 そこでジョンは決断します。ライバルの製薬会社に会社を身売りして、さらなる資金を確保しようとするのです。その結果、なんと博士は窓際族の研究員に祭り上げられてしまいます。
 新しい窓際族となっても、周りの研究員とトラブルの絶えない博士でしたが、最後に見せる「大人の対応」には、感動しました。患者のためには、プライドの高い博士すら、自分を殺してでも、理想より最善を選ぶことがあるのですね。
 とはいっても、ここまでジョンと博士は二人三脚で苦労してきた同志。その二人の仲を裂いてまでも、子供たちの命を守るために、時にはビジネスが優先される現実が過酷で切なかったです。義に篤いジョンでさえ、成果を出すためには、博士を切り捨て企業と手を結ばなければならなかったのは、当人同士も相当辛かったことでしょう。
 また、会社内で孤立する博士の姿は、“赤ひげ”のように生きることの難しさを体現しているかのようでした。

 映画のモデルになったジョンの手記には、企業理念として「ビジネス主導」と明言せざるをえない医薬品開発の現状がさらに詳しく書かれているそうです。ここを掘り下げると、もう1本、シビアな医療告発の映画ができあがるかも知れませんね。

 お涙頂戴にならず、学術的なアプローチでリアル感を醸しだし、ジョンと博士の相克しあう姿を軸にした本作の描き方の方が、難病の治療薬開発の必要性を強く印象づける展開になったと思います。皆さんはいかがでしたか?

追伸
 こちらは映画でなく、リアルな世界の方の顛末です。現在ジョンの二人の子供たちは、すくすくと成長しているそうです。そんなハッピーエンドに心が癒されました。
 ところで、博士は、ジョンとのアプローチを半日すっぽかし、待ちぼうけを喰らわしました。小地蔵もドクター中松氏と著書の映画化のアポで1時間以上待たされました。目の前にいるのにです。研究者は、没頭するとどうしても目の前の約束事に疎くなってしまうのでしょう。そういうところから変人視されてしまうのは残念なことです。何かに打ち込んで研究している人には、敬意をもって接してあげることも必要ではないでしょうかねぇ。

流山の小地蔵