劇場公開日 2009年9月19日

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「『扉をたたく人』以上に移民の問題点を浮き彫りにしているものの、エピソードを主役が繋いでいないところが多いに不満です!」正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5『扉をたたく人』以上に移民の問題点を浮き彫りにしているものの、エピソードを主役が繋いでいないところが多いに不満です!

2009年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作に期待していたのは、ハリソン・フォードが任務と人情の狭間で苦悩する姿でした。しかし、予想に反してハリソン・フォードが演じる不法就労者を取り締まっている特別捜査官マックスは、いくつかのエピソードのつなぎ役でしかありません。思っていたほど出番も少なく、宣伝とは違う内容にガッカリしました。
 マックスは、取り締まの結果母親と生き別れになった、幼い息子をメキシコへわざわざ返しに行くなど人情味のあるところを見せていて、老境を迎えたハリソン・フォードには相応しい役柄ではありました。もっと見せて欲しかったですね。

 そして、エピソードのところだけ見れば、アメリカの9.11以降に変質していった移民に対する過度な取り締まりの問題点を浮き彫りにして、衝撃を受けられるかもしれません。 しかしエピソードを主役が繋いでいないのです。先行して公開された同じテーマの『扉をたたく人』と比べると、ドラマとしての完成度の違いを感じさせてくれます。

 それでも本作で描かれる移民達の悲劇には、こころが痛みました。
 冒頭の二十四歳のメキシコ女性・ミレヤは、自分だけ捕まり子供を置いたまま強制退去に。マックスは彼女の行方を懸命に捜すものの、悲しい結末が待っていました。
 女優志望のオーストラリア出身のクレアは、グリーカード欲しさに、移民審査官に体を売ってしまいます。けれどもその結末は儚いものでした。バングラディッシュ出身の少女・ダズリマの場合は、もっと悲惨。熱心なイスラム教徒というだけで、学校で危険人物されて、FBIに強引にテロリストにされてしまうのです。捜査官は、ダズリマに家族全員国外退去になりたくなかったら、テロリストだと認めなさいと。ことの真偽ではなく、捜査上のメンツのために暗に認めろという脅しに近い物でした。
 その結果ダズリマは、単身で母国へ強制退去になります。3歳のとくアメリカに来て、アメリカ人として育ったダズリマは母国語を話すことも出来ないのにです。

 本作では、『扉をたたく人』以上に、9・11以来のアメリカ社会でイスラム教徒への弾圧と差別の激しさを描いています。しかも移民たちの中で、同じ宗教でもユダヤ教は優遇され、イスラム教は叩かれてしまうところをきちんと押さえています。そんなところは、さすがにアメリカ人の伝統が息づいているなぁと思いました。

 「グラン・トリノ」でも移民の問題を取り上げました。だけれど移民してきても、本作のように国籍を持てない人は、もっと悲惨です。そんな人が国籍を持てて、晴れてアメリカ人となれる宣誓式典をどれほど乞い望んでいるか、本作でもマックスの友人のハミードを通じて、切実に描かれていました。

 世界中に貧困が有る限り、移民の問題はなくならいでしょう。
 そして世界第2位のわが国においても、労働力が不足しているのなら、もっと移民に門戸を開いてあげてもいいのではないでしょうか。

流山の小地蔵