劇場公開日 2009年6月27日

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 : 映画評論・批評

2009年6月30日更新

2009年6月27日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー

悲壮感を乗り越えてポジティブに生をまさぐる意思を感じさせる

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新劇場版「序」ではシンジの性格付けに変化の予兆を感じさせたが、「破」はもはやリメイクとは思えぬほど感触が変わり果てた。14歳の少年が何とか自らを肯定して幕を引いたTV版と、世界を破滅させた旧劇場版——ロボットアニメというジャンルを装いつつ、庵野秀明が不安と焦燥にかられる自我をさらけ出した90年代後半の神話は、ゼロ年代末期を生き延びようとして必死な魂とシンクロするかのように変容した。

新たに投入されたのは快楽的に戦闘に臨むキャラ、マリ。謎めいた彼女は全編を覆うトラウマに満ちた空気を壊す役割を体現し、遂には、あのレイまでもが心を開き始める。最も重要な変更点は、大切な他者の危機にシンジが直面するシチュエーション。少年は誰を傷つけ、誰を救うのか。2つの戦いには、昭和歌謡の名曲「今日の日はさようなら」と「翼をください」が聖歌のように奏でられる。それは、庵野が「ラブ&ポップ」で援交を通過した少女たちが未来に向かって歩き出すラストに流した「あの素晴しい愛をもう一度」を彷彿とさせ、悲壮感を乗り越えてポジティブに生をまさぐるシンジの意思を感じさせる。

90年代エヴァが「逃げちゃダメだ……」という引きこもり的態度に象徴されるとすれば、新生ヱヴァの精神は「綾波を返せ!」という決然たる言葉に込められた。自己嫌悪のループの果て破綻した物語を、作り直さねばならなかった真意はそこにある。伝説と化した作品を依り代に、配給も含めたすべてを掌握し、自分自身の物語にけりを付ける庵野の戦いには、希望の匂いさえ漂ってきた。

清水節

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