サクリファイス(1986)

劇場公開日:

解説

言葉を話せなかった少年が話せるようになるまでの1日を、その少年の父の行動を通して描く。製作はカティンカ・ファラゴー、エグゼキュティヴ・プロデューサーは、アンナ・レーナ・ウィボム、監督・脚本は「ノスタルジア」のアンドレイ・タルコフスキーで、これが彼の遺作(86年死去)となった。撮影はスヴェン・ニクヴィスト、音楽はJ・S・バッハ(マタイ受難曲BWV244第47曲)他スウェーデン民族音楽と海音道宗祖の法竹音楽 、美術はアンナ・アスプ、編集はタルコフスキーとミハウ・レシチロフスキーが担当。出演はエルランド・ヨセフソン、スーザン・フリートウッドほか。

1986年製作/スウェーデン・アメリカ・フランス合作
原題:Offret/Sacrificatio
配給:フランス映画社
劇場公開日:1987年4月25日

ストーリー

スウェーデンの南、バルト海をのぞむゴトランド島。誕生日を迎えたアレクサンデル(エルランド・ヨセフソン)が息子の少年(トミー・チェルクヴィスト)と枯れた松の木を植えている。かつて「白痴」のムイシキン公爵の役等で大成功をおさめた名優だったアレクサンデルは今は評論家、大学教授として島で静かに暮らしている。「昔、師の命を守って3年間、若い僧が水をやり続けると、枯木が甦った」という伝説を子供に語るアレクサンデル。そこに郵便夫オットー(アラン・エドヴァル)が祝電をもってやってくる。無神論者というアレクサンデルに、オットーは、ニーチェの永却回帰の話をもちだす。喉の手術をしたばかりの少年は、言葉が言えない。親友の医師ヴィクトル(スヴェン・ヴォルテル)を案内して妻のアデライデ(スーザン・フリートウッド)が来るが、アレクサンデルは子供との散歩を続け独白をくり返す。ヴィクトルのプレゼントのルブリョフのイコン画集にみとれるアレクサンデル。妻は、舞台の名声を捨てた夫に不満をもっている。娘のマルタ(フィリッパ・フランセン)も、小間使のジュリア(ヴァレリー・メレッス)も魔女と噂される召使いのマリア(グドルン・ギスラドッティル)も、夫婦の不仲には慣れている。急に姿が見えなくなった子供を探していたアレクサンデルは、突然失神する。白夜の戸外。アレクサンドルは、自分の家とそっくりな小さな家を見つける。通りかかったマリアが、自分で作ったのだという。子供は2階で眠っていた。アレクサンデルが階下へ降りると、テレビでは核戦争の非常事態発生のニュースを報じているが、途中で通信が途絶えた。電話も電気も通じない。パニックに陥る人々。いつも自分の願望とは逆な結果に終わってきたと嘆くアデライデ。子供に気を使う小間使のジュリアを、感謝の気持ちを込めて抱き寄せる彼女。アレクサンデルはヴィクトルのカバンの中にピストルをみつける。隣室ではヴィクトルを誘って服をぬぐマルタ。アレクサンデルの口から、初めて神への願いが発せられる。「愛する人々を救って下さい。家も、家族も、子供も、言葉もすべて捨てます」と誓う。ソファーに眠り込んだアレクサンデルをオットーが起こしにくる。そして彼は、マリアの家に行き愛せ、という。マリアを訪れたアレクサンデルは、彼女に母の思い出を話し、抱き合った。朝、目ざめたアレクサンデルは、光の中、神との契約を守るべく、自らを犠牲に捧げる儀式をはじめた。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第39回 カンヌ国際映画祭(1986年)

受賞

コンペティション部門
国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞 アンドレイ・タルコフスキー
芸術貢献賞 スベン・ニクビスト
審査員特別グランプリ アンドレイ・タルコフスキー

出品

コンペティション部門
出品作品 アンドレイ・タルコフスキー
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映画レビュー

5.0タルコフスキーの『渚にて』

2023年9月24日
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マサシ

5.0ウクライナ戦争のさなかに このサクリファイスを観ることの意味

2022年12月28日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

サクリファイス

上空を通過するあの轟音の戦闘爆撃機。
そして子供の白血病の死のストーリーと、甲状腺がんを思わせる喉のガーゼ。これは1969年のフランス映画「クリスマス・ツリー」に倣います。

この「サクリファイス」は、核の時代の黙示録的作品。
この時期にこの作品を観ることには正直気合が要った。

「核戦争が始まった」。
「みなさんどうか落ち着いて下さい」と、絞り出すように呼びかける、首相の悲痛なテレビの声。

家族が不安の中でリビングに集まり、オロオロと歩き、問い、叫び、パニックになる。互いに鎮静剤を打ち、そして酒を飲む。

僕らはこの頃は慣れてしまったけれど、「北朝鮮からのミサイル・アラート」。
あれが日本の上空を越えた時のあの「アラート音」。皆さんあの初体験を覚えておられるか。
・・どうしてよいか分からず、身を硬くして、上空に耳を澄まし、呼吸が浅くなったあの時の事を覚えておられるか?
とうとう核戦争が始まったというニュースを聞けば、僕らもアレクサンデル同様、どれだけ平常心を失ってうろたえるかわからない。

神頼みのために、魔女と寝るために、そして妻子を守るために、アレクサンデルは村外れまで行く、
命の取り引きのために。

・・・・・・・・・・・・・

【ウクライナ戦争】
2022年2月24日、ロシアは突如としてウクライナに侵攻した。
数日で白旗を挙げるものと踏んでいたロシアのプーチン大統領の目論見は外れた。
ウクライナと、その後方から軍事支援を延々と続ける西側に対して、業を煮やしたプーチンは「核」の使用を公然と口にする。

ロシアからもウクライナからも兵役忌避者は国境を越えてなだれ出し、スウェーデンはついに国境を閉鎖。
スウェーデンとノルウェーはこの事態を受けて、中立を破りNATOへの加盟を決断。

スウェーデンのゴトランド島で撮られたこの作品は、対岸にロシア本土を臨む地だ。
プーチン大統領の「核発言」に西側諸国も一触即発で対峙している。
西ヨーロッパもアメリカも、長引く戦費支出に疲弊しており、いつウクライナを見捨てるかもわからない状況。
世界はいま緊張の頂点にある。

・・・・・・・・・・・・・

【生理的拒絶感を涵養する】
監督タルコフスキーは
劇中で尺八を流し、
主人公にキモノを着せ、
枯れ木に3年水を注いで枯山水と生け花を鑑賞者にイメージさせる。
あれは東洋趣味の遊びではない。
あの脚本は明らかに日本を指し示している。
日本国の歴史をば映画の舞台=スウェーデンに重ね合わせて「被爆地ヒロシマとナガサキ」を我々観衆に逃れようもなく想起させようとしているのだ。

◆プーチンは強硬に「核」を口にする。
にも関わらずあのプーチンをして核の使用を躊躇らわせている力はどこから来るか、
◆そしてこの映画で、息も詰まるようなパニックと悲壮感を見せるアレクサンデルの家の有り様。あれは何ゆえに引き起こされるのか、

僕は思うのだ、
それは世界の果て、極東の小さな島国で「78年間語り続けてきたヒバクシャがくれた賜物」以外のなにものでもないだろう、と。

― 証言で。写真で。遺物と記録映像で。そして自らのケロイドを国連総会で晒してまで、78年間倦まずたゆまず、雨の日も風の日も黙さずに語り続けた「ヒバクシャ」が、とうとう世界に成し遂げた それは《ためらいの力》だろう。

1962年の「キューバ危機」で、その苦悩ゆえケネディを突っ伏させた力、
1980年代のこの映画の時期の、冷戦の凄まじさにあっても核は使われなかった事実の力、
そしてこの度のウクライナ戦争。

プーチンへの抑止力。バイデン米国大統領への抑止力。
理由はたとえどうであれ、人類を顔面蒼白にし、躊躇させ、理性と道徳を喚起させて とうとう「核」への歯止めになったのは「ヒバクシャの力」だったのだ。

・・・・・・・・・・・・・

現自民党総裁=岸田文雄氏の内閣支持率は25%まで下がった。もはやあの総理は死に体だ。
でもその彼が(役立たずで頼りない総理大臣の彼なんだが)、彼が決めているのは来年春(2023.5)の「広島サミット」だ。
各国首脳をヒロシマに呼んで、その地に立たせる経験をさせようという―そのプログラムは、何としてでもぜひ岸田には実現させてもらいたい。
広島1区の彼にはそれを成し遂げる務めと、語り部としての襷(たすき)の意味・使命を貫いてもらいたい。

(ロシアのプーチン大統領もいつかヒロシマに来てくれるのだろうか・・)

・・・・・・・・・・・・・

【発狂は正常】
・「サクリファイス」のアレクサンデルは、核戦争への恐怖ゆえ精神病院送りとなった。
・黒澤明の「生きものの記録」でも、発狂は三船敏郎の上に現れる。

・子供を放射能から守るために、核戦争の恐怖を見せたくないという愛ゆえに、注射の薬液で我が子を 眠・ら・せ・たいとするほどの親の狂気・・
そうなのだ、核への恐れから気が触れてしまうことこそが我々人類が反応すべき正常な反応なのだ。

・・・・・・・・・・・

開戦から10カ月目のクリスマスです。
このレビューを後年読み返すときに
ウクライナの危機が春の訪れとともに氷解していて、新しい年には平和が回復していることを
僕は心から願います。

2022.12.25.

・・・・・・・・・・・・・

追記
ついにヒロシマでG7サミットが始まりました。全員が資料館に入りました。
記念すべきことです。

検索 ―
「核兵器を永久になくせる日に向けて共に進んでいこう」バイデン大統領らG7首脳 原爆資料館で記帳したメッセージ【全文仮訳記載】 2023/5/20(土) 11:32 Yahoo!ニュース

追記
カナダのトルドー首相、G7閉会後にプライベートに資料館を再訪

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きりん

5.0最終戦争勃発

2022年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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kossy

5.02021年だから観てよかった

2021年12月22日
iPhoneアプリから投稿

主人公の絶望や不安、緊急事態、神への祈り、マリアへの救い(ここはカトリックじゃ無いから、男性じゃ無いからちょっと理解できないが、息子が母親に救いを求めると考えると、こういう事になるのだろうか?)
大きな混乱の最中で息子だけが全く別の世界で生き生きとしているところが希望でした。
大戦のPTSDや、核への恐怖は、2021年現在の底知れぬ恐怖を彷彿とさせます。
今じゃこの様な表現は作ることが出来なかったかも知れません。巨匠の遺作としてとても見応えが有る作品です。

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