樹の海

劇場公開日:

解説

富士山麓の青木ヶ原樹海に足を踏み入れた自殺志願者たちそれぞれのエピソードを交錯して描く、異色の人間ドラマ。監督は降旗康男、佐々部清始め多くの名監督の助監督を経てきた瀧本智行。出演は「光の雨」の萩原聖人、「フィラメント」の井川遥ほか。2004年の東京国際映画祭で日本映画・ある視点部門の作品賞・特別賞を受賞した。

2004年製作/119分/日本
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2005年6月25日

ストーリー

青木ヶ原樹海と呼ばれる溶岩流と原生林からなる森は、いつの頃からか、自殺の名所としてその名を日本中に知られている。(1)暴力団組織にそそのかされて5億円もの公金を横領、口封じの為に殺されて、樹海に遺棄された朝倉(萩原聖人)。奇跡的にも一命は取り留めたものの、犯罪者と成り下がった今、この森を出ても行き場所はない。朝倉は寝袋を手に森の中をあてどもなくさまようしかなかった。森を歩くうちに、朝倉は一人の男に出会う。今まさに自殺しようとしている中年男・田中だった…。(2)悪辣な金融を営むタツヤ(池内博之)の携帯電話に、夜逃げした顧客・北村今日子からの突然の着信。自殺をしようと樹海へ入ったはいいが、足を挫いて動けない、というSOSだった。携帯電話越しの今日子の声と森の中に張り巡らされたロープに導かれながら、タツヤは森の奥へ誘われるように進む。歩を進めるうち、タツヤの中に不思議な感情が芽生え始める。タツヤは森の中で自分を解放するかのように語りだす。突然襲いかかる不安。果たしてこの森の奥に、本当に今日子はいるんだろうか…。タツヤは今日子にいてほしいと強く願いながら、ロープの終点を目指して走る。(3)一流企業に勤める山田(津田寛治)は、興信所の探偵・三枝(塩見三省)に突然呼び出される。彼から見せられた写真には若い女と一緒に自分が写っていた。しかし山田はその写真にも女にも、全く憶えがない。「彼女は横山真佐子さんといって、先日、樹海で自殺しているのが発見されました」。写真は真佐子の遺留品だと言うのだ。山田は必死に記憶を辿るうち、その写真が撮られた日のことを思い出す。それは2002年の日韓ワールドカップ、日本が初めてロシアに勝った試合の夜の出来事だった。山田は、たった一瞬すれ違った真佐子との思い出を話し出す…。(1´)一方、朝倉はさまよううちにまた田中に出会ってしまう。田中はすでに死んでおり、ロープの先で無言になって揺れていた。朝倉は田中のポケットを探り、遺書代わりのメモを見つける。田中は中小企業経営者で、資金繰りに困った末、家族へ残す保険金のための覚悟の自殺だった。朝倉は死体となった田中と一晩を過ごす。やがて、朝倉は犯罪者となった自分のことを喋りだす。それは後悔と自責の念、そして生きてこの森から出ることはできないという思いつめた心情だった。朝倉の独白を田中はただ“黙って”聞いている。そして夜が明け、朝倉はふとあることに気付いた…。(4)映子(井川遥)は首都圏郊外の私鉄駅の売店で働いている。2年前、ストーカー行為のために都市銀行本店勤務というキャリアを失い、今はひっそりと暮らしていた。生活のために就いた仕事だったが、いつしか映子はこの職業を愛し始めていた。いや、職そのものよりも、売店に溢れている商品を愛していた。駅売店の商品はいつも緊急のために存在している、必要としてくれる人をこの狭い空間で待ち続けている、それは商品に託した自分の今の心境だった。歳月が映子の心を癒し始めた頃、偶然が起きる。映子がストーカーをはたらいた不倫相手の渡辺がこの町に越してきたのだ。映子は2年ぶりに精彩をなくした渡辺を見た。二人の視線が一瞬交錯したが、空ろな渡辺の瞳に映子の姿は映っていなかった。あの事件は自分だけではなく、渡辺をも変えてしまっていた。映子はひとり、樹海へと向かう。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

0.5樹海を舞台に自殺希望者の「未練」がもたらす結果とその後の経過がテーマなのかな

2022年2月11日
PCから投稿

テーマがそれに絞れていればまだ良かったように思うが、どうにもダラダラまとまりを欠いた演出で過度に間延び描写していたのは大きなネガ点。

作り手側の「樹海自殺」に対する認識の浅さ、それを題材に映画をいかに作り上げるかというさもしい打算が垣間見えるようで、題材がではなく製作意図に嫌な感覚が生じてしまったよ。

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resuwisshu311

4.0死臭漂う森林浴。もっと暑い時期に観ることができたら、最高だったかもしれない。

2019年7月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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kossy

4.5まさに人間群像

2010年5月29日
PCから投稿

悲しい

知的

拙ブログより抜粋で。
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ほぼ2時間の上映時間は、樹海と自殺というキーワードだけで組み立てられた一本の映画としては、少々長い気もするのだが、四つのエピソードが、うまく描き分けられていて、視点や表現方法も変えてくるので、なんとか飽きずに観ていられる。
技巧的なことで述べれば、独立した四つのエピソードを絡めつつ、回想シーンも多用し、場所や時間軸が盛んに飛び回るのだが、構成や編集のうまさなんだろう、単調にならないよう適度に思考回路を刺激しながら、かといって話がわからなくなるということもない。

ただ、裏を返せば、この手のオムニバス作品の宿命で、各々のエピソードそのものは比較的あっさりしており、派手なストーリー展開で魅せるという類いの作品ではない。
携帯電話でのやりとりで説明台詞的に語られるタツヤのエピソードにしても、会話劇に終始する山田と三枝のエピソードにしても、あらすじだけで言ってしまうと他愛もない小話にすぎない。しかし、そこに凝縮された監督の人間観察の鋭さ、脚本家としての引き出しの多さには圧倒させられてしまう。
死のうとする者、生きようとする者、普通の人々が自殺へ追い込まれる背景の一端が綴られた、まさに人間群像。
人の生と死をさまざまな角度から描きながらも、すべてのベクトルは「あなたにも誰かがいてくれる」という確固たる主張に向かっており、遂には感動的な再生の結末へと収束する。
「自殺はいけない」という実直なテーマの一方で、「自殺は悪だが、自殺者は悪人ではない」との信念が貫かれていることもまた、陰鬱になりかねないこの作品が、不思議と温かみのある良心の作品になっていることに一役買っているといえよう。

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かみぃ
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