名もなく貧しく美しく

劇場公開日:

解説

松山善三が自らの脚本を、初めて監督したもので、ろう者夫婦の物語。撮影は「ぼく東綺譚(1960)」の玉井正夫。出演は小林桂樹と高峰秀子。

1961年製作/128分/日本
原題:Happiness of We Alone
配給:東宝
劇場公開日:1961年1月15日

ストーリー

竜光寺真悦の嫁・秋子はろう女性である。昭和二十年六月、空襲の中で拾った孤児アキラを家に連れて帰るが、留守中、アキラは収容所に入れられ、その後真悦が発疹チフスで死ぬやあっさり秋子は離縁された。秋子は実家に帰ったが、母たまは労わってくれても姉の信子も弟の弘一も戦後の苦しい生活だからいい顔をしない。ある日、ろう学校の同窓会に出た秋子は受付係をしていた片山道夫に声をかけられたのをきっかけに交際が進み、結婚を申込まれた。道夫の熱心さと同じろう者同士ならと秋子は道夫と結婚生活に入った。二人の間に元気な赤ん坊が生れた。が、二人の耳が聞こえないための事故から死んでしまった。信子が家を飛び出し中国人の妾となりバーのマダムに収まったころ、道夫は有楽町附近で秋子と靴みがきを始め、ささやかな生活設計に乗り出した。グレた弘一が家を売りとばした。母のたまが道夫たちの家に転がりこんできた。秋子はまた赤ん坊を生んだ。たまは秋子たちのためにねじめを手放した。秋子はその金でミシンを買い内職を始めた。子供の一郎は健全に育ち健康優良児審査で三等賞を受けた。道夫は一郎の教育を考え靴みがきを止め印刷所の植字工になった。が、一郎は成長するにつれ障害者である両親をうとんずるようになった。内職の金をごまかされたり秋子の苦難の日はつづく。刑務所を出てきた弘一がミシンを売ってしまう。絶望した秋子は置手紙を残して家出した。しかし後を追いかけてきた道夫の手話による必死のねがいで、秋子は家に帰った。一郎も優しい気持の子供に変っていった。が、生活は相変らず苦しい。ある日、昔、秋子が助けた戦災孤児のアキラが自衛隊員の姿で訪ねてきた。うれしさに秋子は大通りへとび出した。そのとたん秋子はトラックにはねられて死んだ。激しく鳴らした警笛がろう者の秋子には聞こえなかったのだ。一郎は、貧しくとも美しく生きた両親の慈愛をうけて明日への希望めざしてゆく…。

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映画レビュー

4.5必見(閲覧注意)

2023年12月19日
Androidアプリから投稿

冒頭の空襲シーンの映像と音響で一気に引き込まれました。正直の所、ストーリーやテーマ云々より、高峰秀子に見惚れていました。小林桂樹も素晴らしく、美しさを引き立てていました。子どもの描写にも心をくすぐられました。

電車のシーンは言わずもがな、卒業式を窓越しに見守るショットも美しく、はああと溜め息が漏れました。そこへいきなり加山雄三が現れたんです…「えっ!」と固まっていると、誰もが知るあの笑顔。報せを聞き、駆け出すデコちゃん。ん、既視感が…。その後のことは良く覚えていません。

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抹茶

4.0美しすぎる宗教的寓話、かと思いきや…

2022年6月25日
iPhoneアプリから投稿

聾唖と貧困の二重苦に喘ぎながらもなんとか人並みの生活を送ろうとする家族。そこへ次から次へと受難が降りかかる。戦争、第一子の死、職場の焼失、弟の暴虐、そして妻の死。まさにアブラハム宗教的な「受難」としか形容できない不条理が家族のささやかな生活を意味もなく脅かす。

それでもこの家族は悪の道へと堕落したり自分一人だけの世界に自閉したりせず、神が与え給うた運命の中で再生の道を探り続ける。

苦しい生活から逃れようと電車に飛び乗った妻を夫がガラス越しに説得するシーンはこの上なく美しい。それまで夫婦の欠如性を責めるかのように忙しなく鳴り響いていた街のノイズがすべて止み、その真空の間を二人の手話が豊かに交通する。この瞬間、二人はほんの少しではあるけれど、健常者たちの構築した「世界」から自分自身を取り戻すことができたのだ。

しかしとにかく物語全体が潔白なる信仰意識に包まれており、黒澤や小津や川島や成瀬の筆致に慣れ親しんだ身からすると、いまいち「邦画」を見ているという感じがしなかった。清濁併呑のリアリズムを活写しているというよりは、汚濁こそが清いのだという宗教的寓話だったな〜という印象。これを見る直前に岡本喜八を見ていたから、というものあると思うけど…

かと思いきや、最後の最後で息子が聾唖の両親について「聾唖でなかったらもっとよかった」と感慨を述べるシーンが挿入される。確かに今も幸せではあるけれど、二人の耳が聞こえていたらもっと幸せだっただろうな、と彼は言ってみせるのだ。信仰が盲信へと変転しかけたまさにその直前のタイミングでこういうセリフを入れるのはかなり巧い。清廉潔白すぎるがゆえに現実から遊離していた物語に、この一言が確かな回路を切り開いたといえる。

全体を通してショットが非常に凝っていた。動物園の檻の格子越しに二人の聾唖を映し出すことで二人の心の距離の遠近を表現したり、登場人物の移動に合わせてカメラを右へ左へと忙しなく水平移動させたり、視覚に強く刻み込まれる名ショットが多かった。

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因果

5.0現実を受け入れ真摯に生きる夫婦とその家族に心打たれた

2021年6月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

初回
2021/06/06 CS/BS鑑賞
高峰秀子、小林佳樹、母親の原泉。この三人の俳優の心象を滲ませる表情や言葉にとても感動した。互いに幸せになろう、普通の人より頑張ろうと辛くても力を合わせて生きおうとする二人。そしてそれを力強く支える母。
「騙されても損しても、こうやって皆無事にご飯いただければいいじゃないか。」そのひた向きさ、他者を責めることなく、真の思いやりと心の強さ。辛いこと貧しさをすべてを受け入れながらも、しっかりと家族で支え合うこの映画は、現在の我々にも何を糧に生きていくべきなのかを教えてくれる。

2回目
2023/12/27 映像文化ライブラリーにて鑑賞
 映画は戦時中の大空襲で逃げまどうところから始まる。聾唖の女性・秋子(高峰秀子)とのちに結婚する同じく聾唖の道夫(小林桂樹)。戦後の貧しい環境の中、子どもも授かるが聾唖であるが故のさまざまな困難を乗り越え、二人が互いを認め合い子どもと成長していく慎ましやかな家庭の十数年の物語。手話での会話のため、サイレント映画のように字幕が出る。高峰秀子は言葉が少し出せるがそれはギリギリ絞り出しているよう。この夫婦二人の演技がとても心を打つ。

 母親役のたま(原泉)は自分が苦労したことから子を持つことを反対するが、一緒に暮らすようになり何とか生活が安定してくる。子も小学生になると両親が聾唖であることでいじめを受け、特に母親に反発する。秋子の姉弟が酷い人間として登場し、彼らに裏切られ、ものを盗まれても、母親は「仕方がないじゃないか。また頑張ればいい、また買えばいい。こうして皆無事にいられるだけでいいじゃないか。」と明るく皆を励ます。

 この映画の良さは、映画評論家の佐藤忠男氏が書いているように「手話で二人は世間一般の夫婦が、むしろ照れたり、面倒くさがったりして滅多にやらないような会話を、懸命になってするのである。・・・愛情をはっきり伝えるため、一生懸命、言葉を捕まえようとする努力こそが、世間一般の人々より、ずっとずっと美しく、生き生きとさせているのである。」ということにあるのかもしれない。

 この映画は、兵庫県新温泉町出身で、耳が不自由ながら日本画家、教育者として活躍した藤田威(たけし)さん(1917〜1972)夫婦がモデルになったという。その後、島根県浜田市で暮らす一家は映画公開の3年前に、雑誌『暮(くら)しの手帖(てちょう)』に取り上げられた。創刊者の花森安治さんが取材、執筆した企画「ある日本人の暮し」。それを初の監督作品として脚本も手掛けた- 松山善三氏がこれほどまでに感動的な映画にして昭和36年まだ戦後が残る日本人に大切なものは何かを示してくれたのだと思う。

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M.Joe

5.0名作中の名作

2019年8月16日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

名作中の名作だと思った。高峰秀子と小林桂樹の手話などの熱演も雰囲気も、男女愛、夫婦愛、家族愛などを原泉の母と子役も含めて、辛い人生をあたたかくみせていく。平成以降の日本人が忘れてしまった面を残しているような映画だった。

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Takehiro
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