劇場公開日 1962年4月8日

キューポラのある街のレビュー・感想・評価

全12件を表示

3.5【高度経済成長期の社会問題を背景に、貧しき庶民の中学生の娘が時に父と喧嘩し、時に絶望しつつ様々な経験をし、自立した暮らしを選択する姿を描いた作品。】

2024年2月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■キューポラという煙突が立ち並ぶ鋳物の町として有名な埼玉県川口市。
 昔カタギの頑固な職人・辰五郎(東野英治郎)の一家に時代の波が押し寄せる。
 工場が買収され、辰五郎はクビになってしまう。
 娘のジュン(吉永小百合)は、パチンコ屋でアルバイトをしながらも高校進学を目指すが、現実は厳しい。

◆感想

・テーマ的に暗くなりがちな物語だが、それを救っているのは弾けんばかりの笑顔が輝く若き吉永小百合さんの存在である。

・飲んだくれで金銭にだらしない父、苦しい家計を助けるために飲み屋で働くようになった母。そんな姿を見てジュンは修学旅行を諦める。

・仲の良い子は、経済的に苦しく北朝鮮へ戻る選択をするが、その子は別れ際ジュンに自転車を渡したり、登場人物が皆何だかんだ言いながら相手を思いやる姿が印象的である。

・だが、彼女はそこで挫折する事無く、就職し夜学で学ぶ決心をするのである。

<組合や、労働基準法も知らない父の姿は、当時の中小企業で働く職人を象徴しているのであろうか。
 けれども、あの時代に今作の様な人たちが、貧しさに負けずに懸命に生きたからこそ、今の日本があるのだと思う。
 今の日本は、当時と比べて本当に豊かなのかな、とも思ってしまった作品である。>

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NOBU

4.0今と確実に地続きなあの頃

2021年10月31日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 舞台は1962年の川口市、戦後17年、私の生まれるたった2年前。吉永小百合や浜田光夫たちの長屋は貧乏で道も狭く舗装もされていない。自分のふるさとははるかに田舎なんだが、70年代初頭はまだああした景色が身近にあった気がする。ただそれも自分たちまでで、70年代80年代で全国的に大きく様変わりした町並み、今の若い人たちにはこの地続き感は伝わらないだろう。
 映画は工業化の進展について行けない職人の父、日銭に困るが子沢山な家庭、高校に行けない、修学旅行に行けない家庭、朝鮮人差別、帰国事業など、当時ならではの社会課題と時代の風俗、景色を盛り込みつつ、主人公の明るい性格を中心に、或いは多少無理矢理に、様々な課題は概ね前向きな結論を持って完結する。
 社会派とエンターテインメントの両立した、個人的に好きなタイプの映画でありました。吉永小百合もきれいだし。

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またぞう

3.5ジュンの明るさが素敵

2021年8月21日
Androidアプリから投稿

知的

幸せ

思想的なものとか時代背景とか街の事情など少し考えさせられるけれど、それら抜きにして好感がもてる映画だった。

どうしようもない環境の中でも、できることからやっていこうというジュンのたくましさ、明るさが素敵。
吉永小百合でないとここまで素敵にはならないかも?

お金持ちの級友は優しかった。鼻持ちならないイヤな人に描かれるのがありがちなパターンだけど、そうではないところがピンポイント的に好き。
それぞれの立場で、とるべき形があるのだ、といった美学のようなものを感じる。

弟たちの描写は、少しダルかった。味わい深くて悪くないけど、じゅんの方が気になり、そちらをもっと観たかった。

とにかく清々しい映画だった。

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あま・おと

5.0伝説のはじまり

2021年7月23日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

鋳物の街、川口が舞台、主人公(吉永小百合)は中学三年でやんちゃな弟がいる。
父は会社の人員整理の対象になり、毎日ぶらぶら。
母は飲み屋で家計を支えることに。
貧乏に負けそうになる主人公を励ましてくれる、近所のお兄ちゃんや学校の先生のおかげで自立の道を探る。
この映画からサユリ伝説が始まった。

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いやよセブン

4.0自分をしっかりと持って生きる少女の成長物語

2020年11月26日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

終戦後の高度成長期を描いた物語である。令和の時代には考えられないような描写も多々あって興味深かった。差別表現も多々あった。良くも悪くも、時代は移ろっているということを感じた。それでも、なお、普遍的なメッセージを伝えてくれている。吉永小百合演じる主人公には、「自立」するということの意味を考えさせられた。たとえば、親からの「自立」ということに焦点を当てると、往々にして親に対する反発心が動機となりがちである。しかし、それだけでは、本当の意味での「自立」とはいえないのではないか。自分の人生を自分自身の足でしっかりと歩んでいくということは、親に依存しないという消極的なものにとどまらず、具体的にどうするのかという理想を描くところまでが重要である。主人公は、結果として、自分自身の頭で考えた上で、進むべき道を決めた。もちろん、(父)親に対する反発心もあるにはあったが、それだけではないところが素晴らしいのである。

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Kohei

4.0(私さ、勉強しなくても高校行けるうちの子に負けたくないんだ)を信条に人生を切り開くジュンと時代の映画

2020年7月28日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

原作は、1959年から´60年に雑誌「母と子」に連載され´61年に出版された児童文学者早船ちよの同名本。31歳の新人浦山桐郎監督の第一作品目。岩戸景気(作中では、天照景気)の戦後高度成長期にあった鋳物の街埼玉県川口市を舞台にした、川口市立第二中学校に通う中学三年生の少女が主人公の青春ドラマ。貧しい家庭にめげず進路に悩み打ちひしがれても、常に果敢に立ち向かう主人公のひた向きな生き方が感動を呼ぶ。その石黒ジュンを演じる16歳の吉永小百合の瑞々しく快活な演技と晴朗な美しさが、一際輝きを放つ。それは、日本の未来を担う戦後生まれの第一世代を象徴するかのようで、”自己中心主義”の時代からお互いが助け合う”組合”の時代への変化を託されたメッセージが込められている。しかし、それ以上に興味深く関心を抱くのは、昭和30年代の世相と風俗が随所に散りばめられた脚本の構成力の高さと省略と伏線の映画的表現をさり気無く施した演出の巧さだ。

例えば冒頭の、弟タカユキたち悪ガキが、川原で遭遇した同級生の女の子にスカート捲りの悪戯をするところで、金山サンキチだけはしていない。それが、後半のジュール・ルナールの「にんじん」を演目とした学芸会の場面で分かる。憧れのマドンナ カオリと共演するも、”朝鮮にんじん”と野次を飛ばされ委縮してしまうサンキチの繊細さが、最後のクライマックスに繋がる。
ジュンは父辰五郎が漸く就いた職を自分勝手に辞めたショックで修学旅行を断念するが、そこまでの過程が丁寧に描かれている。進学の為に内緒で月3000円になるパチンコ店のアルバイトをするジュンの事情を知る塚本克己は、担任の野田先生が彼女を咎めようとパチンコ店を訪れたのを知って、話があると飲みに誘う。説得がうまくいった克己は、上機嫌でジュンのところへ来てスーパーマン(野田先生のあだ名)が褒めていたと、自分の気持ちを込めて言う。野田先生はジュンがお金に困っていることを知って、旅行代を集金する前日に市の補助金制度を使うことを勧める。そんな紆余曲折に疲れて川べりで貸付書を破り捨てるシーンに、ジュンの気持ちが見事に表現されている。そして志望校の浦和第一高等学校に行くのだが、偶然ハトを放つ為に電車に乗るタカユキも浦和に向かう。タカユキは、浦和少年鑑別所の前で、こう叫ぶ(しっかりやれよ!ちゃんと帰るんだぞー!)と。興味本位で中を覗いたタカユキのこの言葉は、姉ジュンにも呼びかける意図を加えて三つの意味が込められている。だが、夜になり帰ろうとするジュンだったが、飲み屋で客と戯れる酌婦の母をみて嫌悪感を抱く。それは、その日の川原での自分に起こった体の変化が大きく影響している。

常に前の場面の意図を受けた展開を見せ自然な流れを作る脚本は、今村昌平と浦山桐郎の映画的な話術の洗練さであり、説明と暗示のバランスの良い演出と見事に溶け合っている。最も素晴らしいのは、友人リスに誘われて投げやりな気持ちで酒場に行き、不良たちの暴行から逃れるシーンだ。足に怪我を負いひとり蹲っていると、遠くから心配してジュンの名前を叫ぶ克己の声が聞こえてくる。彼女はその声で我に返り、自分の不甲斐なさに泣き崩れるのだが、このカットの吉永小百合の表情演技が素晴らしい。ライティングを生かした姫田真佐久のカメラワークも秀逸だ。これに呼応するタカユキの場面が次に来るが、ラストシーンが象徴するように、この映画はジュンの物語であり、ジュンとタカユキの物語でもある。それまで自分を親分と慕うサンキチと散々悪さをしてきたタカユキたちだったが、牛乳配達の少年の可哀そうな事情を知って一気に消沈するところが可笑しい。少年は、病気の母の薬を買うために牛乳配達をしているのに、盗まれた分の代金が引かれてしまうと泣きながら訴えるのだ。もうこの場面だけで、この映画を絶賛したくなってしまう。少年に同情したサンキチとまだ反省の色を見せないタカユキは、このことで喧嘩別れするのだが、これが最初の別れの駅前場面になって、待ちわびるサンキチと考えを改めたタカユキの友情を熱く描くことになる。

この時代を記録する意味で、在日朝鮮人の帰還事業が描かれている希少価値がある。今となっては朝鮮総連と北鮮を”地上の楽園”と称賛したマスコミに騙されてしまった人々の嘆きを、母恋しさに一度戻ってしまい会えずに号泣するサンキチが代弁している様に見えて、複雑な気持ちになってしまう。真実を伝えること、真実を知ることの大切さを改めて考えされてくれる日本映画の名作でもある。

両親を演じた東野英治郎と杉山徳子から生まれた子供にしては、余りにもかけ離れた可愛らしさを溌剌と演じる吉永小百合。タカユキの借金返済交渉で、不良たちのたまり場のビリヤード場のトイレで大人ぶって口紅を付けるショットの吉永小百合が、16歳にして完璧な美しさを魅せてくれる。

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Gustav

4.0私が知る小百合様出演映画、最高峰。 極貧、男尊女卑の中、前を向いて...

2019年12月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

私が知る小百合様出演映画、最高峰。

極貧、男尊女卑の中、前を向いて人生を進むジュン(小百合様)に感動。

映画は歴史を映す鏡、それを色濃く感じる作品。昭和30年代後半の社会に愕然。高校進学もままならなかったんだ。在日朝鮮人の北朝鮮帰国運動にも衝撃。このことで本作を批判する人もいるようですが、それは間違いです。時代なのです。

仮にも小百合様の最高峰におかしな点はつけられないのでこの点で(笑)

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はむひろみ

4.0団塊の世代が育った風景がこれなのだ そしてまたその精神世界もそうなのだろう

2019年9月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

昭和37年の川口の光景
古い白黒写真で見ることができる街並みそのものが、本当にそんな貧しかった時代があったことを動く映像で伝えてくれる
団塊の世代が育った風景がこれなのだ
そしてまたその精神世界もそうなのだろう

吉永小百合17歳、役は中学三年生だから15歳
本当に美しく可憐だ

本作は三つの物語が絡み合って進行する

一つ目は、彼女の物語
彼女が貧しい生活の中で挫折しそうになるのを乗り越え新しい時代を目指す
映画だからこうなるが現実には彼女は堕ちていき行き着くところまで墜ちる運命が待っているとまで暗示させる

二つ目は、彼女の父の物語
父は古い世代で横暴であり、社会主義的なものの考えを受け入れない
けれども結局組合の力で職の安定を得る

三つ目は、朝鮮人の父と日本人の母の家庭の物語
帰還事業で帰る父と姉そして弟

ラストシーンは東北線にかかる二車線の車道と両側に歩道を持つ真新しい立派な跨線橋が真っ直ぐに遠くまで伸びているのを撮す
これからの日本はこの橋の上にいるあたらしい世代のものでありその成功はこの橋のように約束されていること暗示させる

帰還事業で列車に乗り込む朝鮮人集団も、新国家建設の意気と希望に満ちている

そう未来への希望に満ち溢れたものだ

しかし、21世紀の我々はその後どうなるのか
その結末までを全て知ってしまっている

古いと批判された父の世代は高度成長を成し遂げ現代に至る豊かな日本にしてくれたことを知っている

本作では青少年だった団塊の世代は今では70代になろう
彼らは学生運動の騒乱を起こし、その挫折を経て、社会主義革命の夢を見果てぬ夢として胸の奥に仕舞いみ、その実未だにくすぶらせていることを知っている

そして北朝鮮に帰った朝鮮人達の悲惨な末路、それにまして朝鮮人の夫についていった日本人妻達やその子供達の筆舌に尽くし難い辛苦を舐め尽くして未だに苦しんでいることを知っている

なのに団塊の世代と、それに洗脳された若い世代の人達まで、この映画のマインドセットのまま21世紀を見ているように思えてならない

彼らの説くお花畑な平和思想は、本作の帰還事業によって新国家建設がなると希望に燃えている朝鮮人達のシーンに重なるのだ

ともあれ映画には何の責任もない
むしろ、その時代の空気を見事に切り取っている佳作と言える

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あき240

4.0父の失業により働かなければならない現状・・・

2019年8月13日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

  高度成長期の日本。誰もが物質的に豊かになったわけではなく、中小企業に働く者の悲哀や在日朝鮮人の寂しさをモノクロ映像に集約させている。中学3年生であるジュンが父の失業により進学を諦めなければならなくなった心情を上手く表現しています。

 この映画のすごいところは、貧乏という言葉を直接的に台詞にしていること。職業に貴賎がないこともハッキリとジュンが言っていて、在日に対する差別も全くないことだ。ただ、大人びた考えの持ち主であるため違和感はあるし、全体的なバランスが悪くなると感じられるところもある。

 それにしても、当時の北朝鮮帰還事業への考え方も楽園のような宣伝のされ方だったのだろうから、感想も変化しているんだろうなぁと・・・あのサンちゃんが逆に可哀想でならないよ。

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kossy

3.0自分が生まれた頃...

2017年6月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

自分が生まれた頃と同じような時代。あんな事もあったなぁ〜と懐かしい感覚が...。生きるためにみな頑張っている。

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さゆっこ

3.0●高度成長期前夜。

2017年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

楽しい

知的

なんと逞しい子供たちか。貧乏ながらも真っ直ぐ生きる姉。悪さばかりしてる弟。盗む者、盗まれる者。悪ガキどもに犯されかけたり。
小さいながらも、社会の厳しさを肌身で感じて強く生きていく姿は頼もしい。ゆとりだなんだって若者に不安を抱く我々も、この時代を生きた先輩たちからするとひよっ子だ。
典型的な職人気質の飲んだくれオヤジ。東野英治郎って、黄門様になる前はこんな役が多い気がする。
そして朝鮮人親子たち。彼らのさらに上をいくというか。こんなことが普通にあったんだろうと思う。人間が強くなる。

個人的には、川口の町並みや、おそらく浦和一女と思われる高校の当時の様子が知れて、それはそれで、なかなか楽しめた。

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うり坊033

3.0荒川を越えて。

2014年11月24日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

知的

BSで諸用をこなしつつ初鑑賞。

吉永小百合が出ているアイドル映画的なモノと思っていましたが、成人のみならず、小中学生たちにも様々な社会的問題を背負わせていて。
北朝鮮への帰国事業が盛んだった頃、まだまだ貧しい日本の市井の人達の暮らしぶり。家父長制の残り火が燻っていた晩期、肉体的にも精神的にも暴力でねじ伏せられることの少なくなかった女性が、その2本の脚で歩み始める黎明期を描いているともいえる。

歴史資料としても面白いと思いました。

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Nori