銀河

劇場公開日:

解説

無神論者のレッテルを貼られそれを忌み嫌ったブニュエルによる<福音書>。現代からキリストの時代へ、あるいは中世へ、18世紀へ、4世紀へ--SF映画のように自由闊達に飛びながら、パリ郊外からスペインの聖地サンチャゴに至る<銀河>をゆくふたりの怪しげな巡礼ピエールとジャンの冒険譚を描く。

1968年製作/102分/フランス・イタリア合作
原題:LA VOIE LACTEE
配給:フランス映画社
劇場公開日:1984年7月28日

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映画レビュー

4.0意外にPOP! モンティ・パイソン調でキリスト教「懐疑」の歴史を時空を超えて横断するロード・ムーヴィー!

2021年9月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2021年の新宿で、ブニュエルの未見作と邂逅する幸せ。
しかも、「文芸」「シュルレアリスム」といったクソ真面目な枠組みではなく、
「奇想天外」映画、「渾身の奇怪作」(パンフ)としてカルト・ホラーとの幕の内で紹介されるのが、実に「粋」でよろしい。
実際、ブニュエル映画の多くは、たとえ難解ではあっても意外に飲み込みやすいPOPさがある。
こうやって、敷居を下げて「妙ちきりんなカルト作」として肩の力を抜いて観て、初めて真価がわかる部分も確かにあるだろう。この枠組みから、新たなファンが発掘されることだってあるかもしれない。K’s cinemaの企画力に感服する。

お話はある意味、単純だ。
パリから古代の巡礼路「聖ヤコブの道(=銀河/天の川)」を通って、スペインの聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラ(星原…ああ、「カンポ」+「ステラ」か!)を目指す、巡礼者のピエールとジャン(=ペテロとヤコブ)。
ふたりは道行の途中、さまざまな「カトリック絡みの」奇人変人たちの奇行や奇跡の一端を目撃する。あたかも、「銀河」を辿ることで、キリスト教2000年の「異端と懐疑」の論争史を浚うかのように……。

そこには、現実とも幻視ともとれぬ象徴的なキャラクターもいれば、市井の生活者もいる。
今が舞台の話もあれば、唐突に4世紀や16世紀の話が昔風のコスプレで挿入されることも。
あげく、にへっと笑う好青年キリストや、ロザリオを返してくれる聖母マリア、気軽に「あんたの子供がほしい」とさそってくる娼婦マリアも登場。
笑い、狂気、グロテスク、エロス、聖と俗、救済と暴力。
時空を超え、現実と非現実のあわいを超え、キリスト教が抱える様々な問題が浮き彫りにされる。

こういうと、やけに難解そうでとっつきにくそうにきこえるかもしれないが、実際に観た感想はおおいにちがう。
まず構造上は、巡礼者の老若凸凹コンビを狂言回しとして、さまざまなカトリックを題材とした小エピソードを羅列していくスタイルなので、観ていてそう混乱することはない。
ノリも、オフビートなシュールギャグに近いようなテイストで、くすりと笑わせるところも多々あり、総じてモンティ・パイソンでも見ているような感じだ。
時空を超えて展開されるといっても、われわれは夢の遊眠社影響下の小劇場あたりで、くさるほど「時間・空間を超えたネタの重層的展開+言葉遊びをメインとするギャグ」で構成された演劇を見させられてきたわけで、しょうじき『銀河』くらいのテイストなら、そこまで奇異な印象は受けない。

作中で展開されている宗教論議にしても、言うほど小難しいものでは決してない。
それらはすべて、聖書や教義書に出てくるテクストからの抜粋で形作られているとのことだが、実際には、むしろ非キリスト教徒なら、当たり前のように考えているような疑義、懐疑ばかりだ。
「ワインとパンが私の血と肉だとか、それマジでいってんの?」
「聖三位一体とかいってるけど、結局イエスって神なの? 人の子なの?」
「あんたら異端者は拷問にかけるけど、異端者ってだれも拷問しないよね」
「神が全部ご存じだっていうのなら、人間に自由意志なんか存在しなくて、全部予定されたことになっちゃうけど、そういうもんなの?」
「キリストだって、ウンコしたり寝坊したりしたよね?」
エトセトラ、エトセトラ。

で、ふたりの巡礼者は、さまざまな宗教論議や、異端者たちの宴や、奇蹟の一端に邂逅するわけだが、これらは驚くほどにふたりになんの影響も与えない。
ふたりは、成り行きのまま、あるがまま、起きたことを受け入れつつも、右から左に適当に流して、鷹揚に旅を続けてゆく。わざわざ「巡礼」しているくらいで、一応はクリスチャンなのだろうと思われるが、周囲の過剰な宗教的ドタバタをかいくぐって、聖地巡礼の旅を成就させるのだ。

映画自体も、キリスト教をあきらかに「揶揄」した内容でありながらも、決して「バカにした感じ」はしないし、そこそこ真摯に宗教的命題と向き合っているようにも見える。だから、観ていてさして攻撃的な気持ちにならないし、楽しいし、語られていることの大半はよくわからないまでも、自然体で笑って観ることができる。

作中、ヤング・キリストが「俺は平和のためじゃなくて、分断のために奇蹟を起こしてるんだぜ」とのたまう。宗教にはたしかに、そういった側面がある。

でも、この巡礼者ふたりの(ブニュエルの)「適度に肩の力の抜けた無手勝流」こそが、
いまあるべき宗教との向き合い方、
しいては、「分断の時代」の生き方なのではないか。

そう思わせてくれる、「良い」映画だった。

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じゃい

5.0タネと仕掛け、いくつ発見できるかが面白い

2019年12月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

予備知識なしでたまたまテレビで観た本作。
タネと仕掛けの連続だけで構成されていることに気づいて「ええッ?」と声が出てしまった。あとはまばたきする暇さえない102分。

聖書とキリスト教界をニヒリスティックにえぐる意欲作。
サンチアゴまでの巡礼の道々に、2000年の聖書の世界を縦横に重ねて辿るロードムービーである。

監督の鬼才ルイス・ブニュエルは”異端”のレッテルに抗していたとのことだが、確かにこの映画を撮った彼の動機は教界外部からのパロディとしての揶揄嘲笑ではなく自分の内なる信仰に対しての真摯なる見つめ直し・問い直しを目的と見ることのできる極めて真面目な作品と思えた。

自分としては「ではお前はどう生きるつもりなのだ?」とスタンガンの電撃ショック。エピソードごとに自らが問われる体験だった。

この様々なエピソードに下敷きとなったそれぞれの聖書の出展を言い当てるビーベルクンデの訓練、あるいはゲームとしてその家の者たちに楽しんでもらえる内容だと思う。

DVD購入。

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きりん

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