劇場公開日 2024年5月17日 PROMOTION

祝日 : 特集

2024年5月7日更新

編集部員にぶっ刺さった【本当に観てよかった衝撃作】
優しい父が自殺した。母も壊れて消えた。孤独に絶望し
命を絶とうとした少女が最期の瞬間、天使に出会った。
少女は“明日死ぬ”ために、もう1日だけ生きてみる――

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映画.com編集部で働く筆者は、毎年多くの映画を鑑賞する。鑑賞本数を重ねるほど、「本当に良いと思う作品」のハードルは上がっていく。しかし年に数回、「ずっと忘れないだろう」と、情緒を揺さぶられる作品と出合う。

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「祝日」(5月17日全国公開)は、「ずっと忘れない」なんて言葉では生ぬるいほどの“胸がアツくなる衝撃作”だった。ポスターでは、制服姿の少女と白い服の女性が、子ども同士が遊んでいるかのように、道路の白線を踏んで歩いている。だが観客は、そんな穏やかな光景からは想像できない絶望と希望に身を浸すことになる……なぜならこれは、ふたりにとって“人生最期の1日”なのだから。

この特集では、物語とその余韻が心に“ぶっ刺さった”編集部員のレビューを通して、絶対に見逃してほしくない「本当に観てよかった作品」の威力を伝えていきたい。


【予告編】人生最期の日に天使と出会った。なんとなく、信じてみた。

【個人的にオススメしたい衝撃作…どういう内容?】
孤独な少女が、明日死ぬため、今日を生きることにした

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まずは本作の内容と、ここまで推す理由を語らせてほしい。

【推しの理由①:衝撃的、でも胸が熱くなる物語】
両親も友達もいない、感情を失ったひとり暮らしの中学生 天使が寄り添い、社会の片隅で生きる人々と出会う旅路の行方は…
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主人公は、中学2年生の奈良希穂。「弱いパパでごめんね」とメモを残し、優しかった父は自殺した。父の死後、母は母ではなくなった。開始数秒で、ポスターからは予想できない“闇”に引きずり込まれ、観客はスクリーンの前から動けなくなり、「最後まで見届けなければ」と、目が離せなくなるだろう。

悲劇は連鎖し、たった14歳の少女は転がり落ちるように、たちまち絶望の淵へと追いやられる。両親も友達もおらず、感情を失い、野菜ジュースとプリンだけを口にし、やり過ごすだけの日々。そして希穂は、学校が休みになった祝日に、命を絶とうとする。だが最期の瞬間、天使に出会う――。

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「死ぬなら明日の方が良いよ」と、天使は希穂に語りかける。希穂は「そうか」と思い、“明日”死ぬために、“今日”を生きることにした。社会の片隅で生きるへんてこな人々と出会う、ふたりの祝日の行方は……。胸が熱くなる結末を見届けたとき、本作は、きっとあなたの「大切な作品」になっているだろう。

【推しの理由②:未来の名匠になり得る製作陣】
監督&脚本など、その手腕に“驚かされる”新世代の才能が結集 “普通に生きることが難しい世の中”で伝えたかったテーマ
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ここで製作陣をご紹介しておきたい。“心に刻みつけたい瞬間”がいくつも生まれる物語を作り上げたのは、「幻の蛍」が国内外で評価された伊林侑香監督と脚本家・伊吹一のコンビだ。

ふたりは本作で、「不合理で生きるのが苦しい世界、普通に生きることが難しい世の中で、なお生きる希望はあるのか」という人生の課題を追求した。そして大事にしたのは、静かだが力強いセリフ、希穂と天使を見守るように追いかけるカメラワーク、溢れる感情を掬い上げる美しい映像だ。

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観れば、“何か”を押しつけることなく、心にすっと沁み入る言葉や演出が印象に残るだろう。「将来また必ず、映画祭でその名を見かけることになる」と確信できる、新世代の才能が結集している。


【渾身レビュー】アカデミー賞作品に負けない映画体験
「本当に観てよかった」「きっと大切な作品になる」

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実は記事の執筆前、伊林監督に、直接感想を伝える機会に恵まれた。感想は話すうちに止まらなくなり……。予定時間を大幅にオーバーする熱量で、語り倒してしまった。

毎年、数えきれないほどの映画が公開されるが、絶対に本作を埋もれさせたくない。この項目では、それほどまでにぶっ刺さった映画.com編集部員が、「『祝日』のここが好きだ」を綴った、渾身のレビューをお届け。

●語る人●
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●圧倒的な孤独の表現が醸し出す凄味 糸が切れるのは、ほんの些細な出来事
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まず個人的に好きなのは、孤独の表現だ。カメラは、両親を失い、ひとりぼっちになった希穂の日常を淡々と映す。カーテンの閉められた真っ暗な部屋で目覚め、蛍光灯の下に浮かび上がるのは、大量の野菜ジュースとプリンのゴミ。この圧倒的な孤独の凄味に身震いする。深く静かに、“底”へと引きずり込まれていく。

「本日は、祝日につき、休校」。正門前でこの看板を見た希穂は、何かに突き動かされるように校舎の屋上へと向かう。そう、彼女には、今日が祝日であることを教えてくれる人が、もう誰もいないのだ。些細な出来事で、彼女のピンと張りつめていた糸が、切れる。さまざまな感情を掻き立て、示唆に満ちたシーンが、丁寧に積み上げられていく。

●自分をずっと見てきた天使との1日――これは、「信じること」についての奇跡の物語
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天使の存在と、彼女が体現するテーマも好きだ。屋上から一歩踏み出そうとした希穂の手を、誰かが掴む。そして現れたのは、鼻血を出している“自称天使”。ずっと、希穂を見守ってきたという。「こんな天使いるの?」と、思わず笑顔になってしまう。

「私たちは天使に守られて生きているんだよ」。そう母に言われていた希穂は当初、天使に全く心を開こうとしない。

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そう、本作は「信じること」についての奇跡の物語なのだ。天使を信じなかった希穂は、長い散歩を通して、「何となく、信じてみることにする」。何も信じられなくなった少女が、自ら信じられるものを選ぶ。それって、すごい奇跡なのではないか? ふたりの心地よい会話に身を任せ、希穂の変化をじっくりと見てほしい。

●このシーンが観られて、本当によかった… 娘と妻をトラックに轢かれ、喪服を脱ぐことができなくなった男の告白に、涙が止まらない
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好きなシーンが本当に多い映画だが、なかでも「妻と幼稚園児の娘をトラックに轢かれた男」のエピソードが最も好きだ。

物語の中盤、希穂と天使は中華料理屋の店主である“アフロさん”と出会う。彼は妻子の葬式以来、喪服を脱ぐことができなくなったという。演じた芹澤興人の切実な演技も相まって、筆者の胸にアフロさんの悲しみが流れ込み、目頭が熱くなった。

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さらに男は希穂のために麻婆豆腐を作る最中、涙ながらにこう告白するのだ。「娘くらいの背格好の天使がきて、僕に言うんですよ……」と。

“……”に続くセリフは、ぜひご自身で確かめてほしい。聞いた瞬間に筆者の涙腺は即座に決壊し、続く展開を経て「本当に観てよかった」と心から思った。

●「死ぬなら明日の方が良いよ」「優しい人は、傷付く世界」――光と闇の間、平日と休日の間 “あわいの時間”を描く
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本作を観ればきっと、“今日を乗り越え、明日に向かう力”を受け取ることができるだろう。劇中には、喪失感を抱え、生と死の間を行きつ戻りつする人々が現れる。飛び降りようとした希穂を、「明日の方が良いよ」と呼び止めた天使もそうだ。人は些細な出来事で死に傾くが、「今日死ぬつもりだったけど、明日に伸ばそう」と思える“何か”があれば、生き続けられる。光と闇の間、平日と休日の間――祝日とは、ぎりぎりで生きる人々の“あわいの時間”なのだ。

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物語は衝撃的なカットで幕を開けるが、エンドロールに入る一瞬前のカットが、これまた素晴らしい。「優しい人は、傷付く世界」という言葉の通り、傷付いてもなお、誰かに優しくしようとする人々が、確かに生き続けている。

感想を伝えた際、伊林監督は「観た方が、自分の思いで語ってください」と明かしてくれた。本作は個人的に「アカデミー賞作品にも負けない」といっても過言ではない、と思った。鑑賞後に誰かと大いに語りたくなる映画体験が、あなたを待っている。

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