コラム:下から目線のハリウッド - 第5回

2021年3月19日更新

下から目線のハリウッド

ハリウッドの映画学校ってどうなってるの? ~三谷Pのハリウッド体験記~[前編]

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回のテーマは、映画の本場・ハリウッドの映画学校の中身を大公開! 実際にハリウッドのお膝元のフィルムスクールに通った三谷Pが、入学から卒業、さらに卒業後の進路までを前後編で語ります!


久保田:三谷さんは東大を出て、アメリカのフィルムスクールに行ったんでしたよね?

三谷:そうですね。2011年に大学を卒業して、その夏に渡米しました。

久保田:アメリカはフィルムスクールって多いんですか?

三谷:フィルムスクール自体は、アメリカはもちろん日本や全世界にもあります。映画をつくりたい人はたくさんいるのでスクールビジネスも多いです。

久保田:そうなんだ。

三谷:でもやっぱり映画製作の本場と言ったらアメリカですし、中でもハリウッドのお膝元であるロサンゼルスは大きな存在ですよね。映画業界につながるコネクションもあって、しっかりプロフェッショナルを育てる環境が整っているので、私はUSC(南カリフォルニア大学)に行かせていただいた感じですね。

久保田:すごく日本人的な感覚ですけど、「フィルムスクール偏差値」みたいなものってあるんですか?

三谷:それで言うとUSCはトップですね。

久保田:すごいなぁ。東京大学からUSCに行ったってことは、偏差値75から偏差値75に行ったってことですよね。行ったのはUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)じゃないですよね?

三谷:そうですね。それはそれでかなり狭き門だと思いますけれど(笑)。

久保田:キャストで入るのにも倍率高いだろうしね(笑)。

三谷:USC自体は、日本で言えば上智大学くらいの位置づけだと思います。ただ、全米に「五大フィルムスクール」というのがありまして、映画学科で言うとUSCはその中でいつもトップか2位に入るところですね。

※五大フィルムスクール:「USC(University of Southern California=南カリフォルニア大学)」「AFI(American Film Institute:アメリカン・フィルム・インスティチュート) 」「UCLA(University of California, Los Angeles=カリフォルニア大学ロサンゼルス校)」「ニューヨーク大学(New York University:NYU)」「コロンビア大学(Columbia University)」の5校。

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久保田:なるほどねー。ここまで「三谷さんはエリートだ」という自慢をしてもらったわけですけど。

三谷:いやいやいや(笑)。

久保田:そういう自慢ができる人は学年でどれくらいいるものなんですか?

三谷:それはつまり、USCのフィルムスクールに入る生徒数ということですよね(笑)。学科にもよるんですが、私が入ったプロデューサーを目指す「プロデュース科」は、毎年25人です。

久保田:他にはどんな科があるんですか?

三谷:USCの場合、まずは、おもに監督になりたい人が通う「プロダクション(製作科)」という科があります。ここは、撮影や編集、録音やサウンドミキシングなど、映画製作をひと通り学ぶ科になってます。

久保田:一応、全部ひと通りやるんだ。

三谷:そうですね。あとは「脚本科」や「アニメーション科」、VFXやCGとかに関わる「インタラクティブメディア」という科もあります。

久保田:まとめると、ざっくりと「プロデュース科」「プロダクション(製作)科」「脚本科」「アニメーション科」「インタラクティブメディア」があると。人数はそれぞれ違うの?

三谷:はい。「プロダクション(製作)科」だと1年に2回、春と秋に生徒を募ります。それぞれ60人ずつなので合計120人ですね。「脚本科」だともうちょっと枠が少なくなくて、1年に1回で30人くらいですね。

久保田:じゃあ、プロデュース科の25人ってけっこう少ない?

三谷:少ないです。毎年全世界から400人くらいの応募があるので、倍率は16倍くらいになります。

久保田:三谷さんはその中から選ばれたわけだ。

三谷:もうそれは運良くという感じで。

久保田:面接とかあるんですか?

三谷:ES(エントリーシート)と面接という感じです。

久保田:そこは日本の大学と一緒なんだね。

三谷:ESに「どうしてこの学校に行きたいのか」みたいなことを書いて、面接を受けます。面接はけっこう圧迫感のあるもので。最初にいきなり「落ちたらどうするの?」って聞かれました(笑)。

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久保田:うわー、コンサルの面接みたいですね(笑)。

三谷:そこで「こういう映画がつくりたい」って情熱を売り込んで。

久保田:どういう映画がつくりたいって言ったんですか、三谷氏は?

三谷:私は「100年残る映画がつくりたい」って言いました。

久保田:(面接官風に)「無理だね、そんなの」

三谷:えーー。ちょっと待って下さいよ!

久保田:いやいや、圧迫面接だったって言うから、それを再現したんだよ(笑)。

三谷:あ、そういうことですか。うわー、本当にドキッとしました(笑)。

久保田:そこまでは言われなかった?

三谷:そうですね(笑)。

久保田:いろいろな科に分かれているってことでしたけど、それぞれ交流はあるんですか?

三谷:交流はわりとありますし、特にUSCの場合は「ネットワークをつくりましょう」ということを強く言う学校だったんですよ。

久保田:「仲良くしなさいよ」って?

三谷:そうです。入学式で「もしかしたら、あなたの隣に座っている人が仕事をもってくるかもしれないですよ」「将来、一緒に組むことになるかもしれないので仲良くしましょうね」と言われました。

久保田:これ、ちょっと気になるんですけど、フィルムスクール内で科によって上下ってあるんですか?

三谷:ないと言えばないんですけれど、学校側は「プロデュース科とは仲良くしなさい」ってプロデュース科以外の人たちに言うんですよ。

久保田:なんで?

三谷:「(プロデューサー以外の)みんなは職能を持つことになる人たちだけど、プロデュース科は――“スターキー”って呼ばれるんですけど――“スターキー”の人たちは仕事を見つけて斡旋する側だから、仲良くしたほうがいいよ」って言うんです。

久保田:はいはい。

三谷:それを受けて、「なんだよアイツら」ってなる人もいるし、中にはわかりやすく近寄ってくる人もいます。

久保田:今、話に出た“スターキー”ってなんですか?

三谷:USCはプロデュース科だけ名前がついているんです。USCのプロデュース科を創設したのがレイ・スターク(Ray Stark)という人で、その人の亡くなった息子さんの名前を冠して、「ピーター・スターク・プロデューシング・プログラム(Peter Stark Producing Program)」と名称がついてるんです。

久保田:へ~。

三谷:なので、プロデュース科を“スターク”と呼んでいて、そこに在籍している人たちを“スターキー”って呼ぶんですね。だから「あいつ“スターキー”らしいぜ」ってなって「へ~!」ってなるのか「キモいな」ってなるかは、人それぞれ反応が違います(笑)。

久保田:どちらにしても一目置かれるポジションなんだ。

三谷:そういうふうに学校が見せてくるんです。東京大学で喩えると、「あの人、理Ⅲだよ」みたいなやつです(笑)。

※理Ⅲ:東大理科三類。京大医学部と並んで、日本で最難関と言われる大学の学部。

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久保田:はいはい。東大あるあるですね(笑)。じゃあ、横のつながりもありつつ、下心もありつつって感じもあるんだ。

三谷:そうですね。もちろん、純粋に友達になる人もいっぱいいますけど。

久保田:科によっての忙しさってどうなの? 日本の大学は「入ったらあとはラク」みたいに言われますけど、海外の大学って入ってからもすごく勉強しないとダメってよく言うじゃないですか。そこらへんフィルムスクールはどうなんですか?

三谷:忙しいです。プロダクション科の人たちは、つねに「どんな短編をつくりたいか」「学校の授業外でどんな作品を撮るか」を話し合ったり、製作したりしているイメージですね。

久保田:授業外でも撮った作品は、スクールで評価されるんですか?

三谷:学校に評価されるためではないですね。フィルムスクールって卒業したら資格がもらえて就職できるってものではないので。

久保田:そうね。言ったら「スクール通ってたか知らんけど、お前はどのくらいのものつくれるんだ!」って世界ですよね。

三谷:そうなんです。だから、やる気がある人ほど自主的に短編をつくって賞に応募して、実際に賞を獲ったりします。それは学校の単位とかとは関係なくやる人はやります。

久保田:単位はあるんだ。

三谷:ありますあります――それで思い出しました。プロデュース科が一目置かれる理由がもうひとつあるんですよ。

久保田:なになに?

三谷:プロダクション科や脚本科が受ける授業って共通のものが多いんですけれど、プロデュース科にはその科の人しか受けられない必修の授業があるんです。

久保田:へぇ~!

三谷:なので、プロデュース科だけはすべてのカリキュラムが決まっていて、それ以外を受けちゃいけないんです。なので、そういう面でも学校側から「他の科とは分けられてる」というのはありましたね。

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久保田:それは学費も違うの?

三谷:科によってそれぞれ違っていますけれど、それぞれ1単位でいくらという金額が決まっています。プロデュース科の場合は1単位で1500ドル(およそ15万円)でした。1年目が24単位、2年目が20単位なので、合計44単位ですね。

久保田:じゃあ、1年目が360万円、2年目が300万円だ。

三谷:めっちゃ計算早いですね(笑)。

久保田:授業は普通の大学と同じで、8時に登校してって感じ?

三谷:授業は基本的に夜です。19時から始まって22時半までの授業が1コマみたいな感じです。水曜日だけは朝から3コマ入っているので、その日は仕事やインターンは入れることができないわけです。

久保田:そっか、昼間は働いてるんだ。

三谷:はい。基本的に平日の昼間はインターンとして映画製作会社やスタジオで働いて、それが終わったら学校に行く、みたいな感じですね。

久保田:インターン先は学校側が斡旋してくれるの?

三谷:「ここでこういう求人あるよ」という情報だけが共有される感じですね。

久保田:日本の学校で言ったら「教務課」みたいな機能のところがあるわけだ。

三谷:そうです。あとは、卒業生が在校生にメールリストで一斉に声かけるみたいなパターンもあります。

久保田:そう考えると、このコラムの第1回のときにもありましたけど、イメージ的には「完全実力社会」だけど、実際は日本よりも「コネ社会」な感じはやっぱりありますね。

三谷:そうですね。実力があってもアクセスする先を間違えたら、全然仕事にはありつけないですし。物理的にハリウッドにいても、結局、何も仕事ができずに終わってしまうみたいことは多いですね。

<後編につづく>


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#30 ハリウッドの映画学校ってどうなってるの? ~三谷Pのハリウッド体験記~[前編])でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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