コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第23回

2011年5月17日更新

芝山幹郎 テレビもあるよ

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「エイリアン」

撮影中のシガニー・ウィーバーと リドリー・スコット
撮影中のシガニー・ウィーバーと リドリー・スコット

エイリアンに良心はない。エイリアンに悔恨はない。エイリアンは生存の意思が強く、構造も攻撃本能も完璧だ。

宇宙貨物船ノストロモ号の科学部長アッシュ(イアン・ホルム)は、異形の地球外生命体をこう定義づける。そうか、敵にまわせば最悪最強の存在か、とわれわれも納得する。

それほど凶悪な生物が宇宙船の内部に入り込み、乗組員をつぎつぎと襲う。迷路のような船内で、エイリアンは闇から飛び出して人間を倒す。成長は速い。体型はどんどん変化する。強酸性の体液を分泌し、歯が異様に鋭く、狡猾な知能も持ち合わせている。

というわけで、「エイリアン」は怖い。公開当時はSFホラーと評されたが、いま見直すとホラーの比重がはるかに大きく、知性も高い。宇宙船という密室でキャメラの前進移動と後退移動が繰り返され、光と影の落差や振り子のような動きも強調される。つまり、なにがどこから出てくるかわからないという濃密な不安の気配が、映画全篇を覆っている。

最大の功績は、エイリアンの造型と宇宙船内部の空間設計だろう。怪物のデザインはH・R・ギーガーで、空間のプロダクション・デザインはマイケル・シーモア。ふたりの「悪夢職人」は映画のテンションを高めていく。最初はじわじわと。後半は一気呵成に。

もうひとつ付け加えておきたいのは、秀逸なキャスティングだ。ホラー映画では、浅はかで跳ねっ返りの若者が恐怖に陥れられることが多いが、「エイリアン」の出演者には地味な中高年が多い。ジョン・ハートトム・スケリットハリー・ディーン・スタントンヤフェット・コットーイアン・ホルム……。彼らは全員、公開当時、30代末から50代という渋い男優だった。ちなみに、女戦士シガニー・ウィーバーはこのとき30歳。監督のリドリー・スコット(公開当時42歳)も、本格的な劇映画はこれがまだ2作目だった。

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エイリアン

NHK BSプレミアム 5月30日(月) 22:00~23:59

原題:Alien
監督:リドリー・スコット
原案・脚本:ダン・オバノン
出演:シガニー・ウィーバートム・スケリットハリー・ディーン・スタントンヤフェット・コットージョン・ハートイアン・ホルム
1979年アメリカ映画/1時間58分

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「スタンド・バイ・ミー」

フェニックス(左から2人目)は、 撮影当時15歳で4人の中では最年長。 2回目の映画出演だった
フェニックス(左から2人目)は、 撮影当時15歳で4人の中では最年長。 2回目の映画出演だった

23歳で夭折したリバー・フェニックスの出世作、として記憶している人が多いのか。

スティーブン・キングの小説のなかで最も成功した映画、として覚えている人のほうが多いのだろうか。

それともやはり、良質のノスタルジーか。少年たちの成長物語が48時間の短くて長い旅に重ね合わされ、甘酸っぱい郷愁を観客の胸に呼び起こしたことが人気の秘密だろうか。

映画の舞台は、オレゴン州の小さな町キャッスルロック(原作はメイン州キャッスルロック)だ。回顧されるのは1959年の夏の終わり。主な登場人物は12歳の少年4人。

彼らはそれぞれに悩みを抱えている。自分は両親にうとまれているのではないか。自分はこの小さな町に囚われつづけていかなければならないのか。自分はずっとデブのままなのか。自分は父親の束縛から逃れられるのか。

そんなある日、彼らは列車にはねられた少年の死体を探しにいくことを決める。死体が放置されているのは20マイル離れた線路際。大人には短いが、子供には長い距離だ。

監督のロブ・ライナーは、映画に3つの要素を混在させる。仲間が力を合わせるバディ・ムービーの要素。4人の少年が歩きつづけるロード・ムービーの要素。少年が精神的な成人式を迎えるカミング・オブ・エイジ・ムービーの要素。なかでも、少年から大人への移行を際立たせているのは、リバー・フェニックスが演じるリーダー格の少年クリスの変化だろう。持って生まれた抒情的体質を画面からゆらりと立ち上がらせるフェニックスは、やはりただ者ではない。ときおり挿入される「ロリポップ」や「ヤクティ・ヤック」といった50年代ポップスも、映画の躍動感を高める役割を果たしている。

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スタンド・バイ・ミー

WOWOW 5月19日(火) 19:00~20:30

原題:Stand by Me
監督:ロブ・ライナー
原作:スティーブン・キング
出演:リバー・フェニックスウィル・ウィートンコリー・フェルドマン、ジェリー・オコネル、ジョン・キューザックキーファー・サザーランドリチャード・ドレイファス
1986年アメリカ映画/1時間29分

筆者紹介

芝山幹郎のコラム

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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