コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第103回

2008年7月4日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第103回:全米サマーシーズンを独走する“非続編映画”に続編が…

「ハンコック」「Wall・E」など オリジナル作品が健闘している
「ハンコック」「Wall・E」など オリジナル作品が健闘している

独立記念日に公開されたウィル・スミス主演映画「ハンコック」で、アメリカの夏の映画商戦は後半戦に突入したことになる。今年も夏休みの子供を対象にした大作映画が大量投下されているが、例年と違って続編映画が意外と少ない。昨年の夏は、「スパイダーマン3」「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」「シュレック3」「ボーン・アルティメイタム」「オーシャンズ13」と合わせて10作品もの続編映画が封切られたが、今年は「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」や「ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛」「ヘルボーイ2」「インクレディブル・ハルク」「ダークナイト」「X-ファイル/真実を求めて」の6本だけ。完全なオリジナル作品は、ピーター・バーグ監督の「ハンコック」やピクサーの「WALL・E/ウォーリー」、ドリームワークスの「カンフー・パンダ」などごくわずかで、非続編映画のほとんどはテレビやアメコミが原作ではあるけれど、それでも初映画化だからずっと新鮮だ。実際、全米ボックスオフィスでは続編映画でないほうが健闘しており、観客がより刺激的な映画体験を求めている証拠ではないかと思う。

この夏の非続編映画の代表作といえば、ロバート・ダウニー・Jr.主演の「アイアンマン」だ。今年のサマーシーズンの開幕前は、誰もが「インディ・ジョーンズ」の独走を予想していたのに、「アイアンマン」はすでに興収3億ドルを突破し、本年度の全米ナンバーワン映画のタイトルを保持している。マーベルの人気コミックが原作とはいえ、地味なキャストだし、監督にはアクション映画の実績がないし、すでに市場はアメコミ映画で溢れている。せいぜい巨額の製作費を取り戻す程度のヒットに収まるんじゃないかと思われていた。

実際ぼくも公開時はノーマークで、そのあまりもの評価の高さに、焦って映画館に駆けつけたほどである。

ダウニー・Jr.の個性が生きた「アイアンマン」 早速続編企画が進行中だとか…
ダウニー・Jr.の個性が生きた「アイアンマン」 早速続編企画が進行中だとか…

アイアンマン」のストーリーは、正直、珍しいものではない。平凡な主人公が、ある日、特殊な能力を身につける。主人公は突然身についた能力に戸惑い、興奮するが、やがて「大いなる力には大いなる責任が伴う」ことを自覚する。そして、ヒーローとして生きる道を選ぶことになるのだ――。

ヒーロー映画のテンプレート通りの展開ながら、「アイアンマン」は驚きに満ちている。それは、なによりも主人公が、成長過程にある少年や青年ではなく、世慣れてシニカルになった大人である点が大きい。自らの才能に溺れ、自堕落な生活をしている主人公トニー・スタークは、かつてのロバート・ダウニー・Jr.そのものと言ってもいい。ろくでもない人間だけれど、常に予想できない行動に出るため、観客は片時も目を離すことができないのだ。スタークはテロリストに拉致されてはじめて自戒することになるのだが、この展開も、ドラッグ依存からの復活を果たしたダウニー・Jr.の人生そのものだ。「アイアンマン」のクリエイター陣は、主人公に強烈な個性を与えることで、新鮮な映画体験を提供することに成功している。

ジェフ・ブリッジス、テレンス・ハワードといった演技派で固めたキャストも素晴らしく、とくにグウィネス・パルトロウ演じる秘書とのプラトニックなラブストーリーは胸を打つ。おまけに派手なアクションで爽快な気分に浸らせてくれるのだから、これで満足するなというほうが無理な話だ。ポップコーン映画に過ぎないけれど、丁寧に作られているうえに、サプライズに満ちている。まさにサマームービーのお手本という作品だった。

今回の大ヒットを受けて、スタジオははやくも「アイアンマン2」の製作を発表している。

ちょっと複雑な気分である。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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